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第4話 魔法の基礎から
今さらだけど、わたしの住んでる所は田舎……というか、村って言った方が正しいと思う。
獣人だけが住んでいて、みんなが助け合いながら生きている。
ただ、わたしとお姉ちゃんはいつも2人。学校には友達だって居るけど、お姉ちゃんに会いたくなって仕方ない。これはもう病気みたいなものなのかもね。
あ、話が逸れたけど、ちょっと大きい村だからあんまり便利なものは無い。映像を記録できる魔道具とか、電話もどきみたいなのとか。
大人が村の外に出るから洗濯機や家電製品みたいな魔道具は買ってくるんだけど、娯楽は全然な感じ。
となると、わたしやお姉ちゃんみたいに鬼ごっこやおままごとなんかに興味を示さない子は、自分で何かやりたい事を見つけるか勉強でもしてるしかない。
……えっちなことでもいいよね?
じゃなかった。
いや、えっちした次の日、2人とも歩き方が変だったから魔法のお勉強は家の中でして、実際に魔法を使うのは次の日になったからってえっちもいっぱいしたんだけどね?
普通なら魔法のお勉強なんてすぐに飽きちゃうのが子供。けれど、何もすることがないわたしたちは本気で魔法に取り組んでるわけです。
あ、今は村からちょっと離れた森の中だよ。
切り株に座って休憩中。
「魔力が多すぎても少なすぎてもダメ……少し術式がずれると精度ががくっと落ちる……うーん、難しいわねー……」
「……お、おねー、ちゃんっ……」
「ん? なぁに? どうかしたのー?」
わたしが震える声で聞くと、イタズラっぽい笑みでお姉ちゃんが惚ける。可愛いけど、可愛いんだけどね?
「わ、わかってる……でしょ? しっぽ……どうして、くわぅっ♡ ……にぎにぎ、するのっ……?」
「そこにユーリの尻尾があるからっ!」
キリッとした表情のお姉ちゃんもかっこかわいくて大好き……でもね、そんな登山家みたいな事を言われても困っちゃうな。
「だって、ユーリが楽しそうに前を歩くから尻尾もふりふり揺れてたのよ? そんなの……誘ってるようにしか見えないじゃない!」
くわっと目を見開いてそう言うけれど、ちょっと何言ってるか分からないよ?
偶にぽんこつお姉ちゃんになるよね……でも、そこがまた可愛い。触られるのだって、こんなお外でとは思うけど嬉しいもん。
「おねーちゃん……」
お姉ちゃんに正面から跨り、少し汗ばんだ首筋に鼻を埋める。変態っぽいけど、お姉ちゃんは頭を撫でるだけで怒ったりしない。どんな顔してるんだろ。
……いたずらしたい。
そういえば、わたしってお姉ちゃんってしか呼んでなかったよね。名前で呼んだことは一度もない気がする。
よし。
「……ヘレナ」
「っ……ゆ、ユーリっ? い、いきなり名前でなんて、どど、どうしたの……??」
面白いくらいに動揺してる。
「ヘレナ、愛してる……」
「はぅ……それは反則よ……」
ぎゅーっと体を抱きしめてきて、恥ずかしがってるのがよくわかる反応。意外に喜んでくれたみたいでよかった。
「でも……ユーリにはお姉ちゃんって呼んで欲しい」
「うん、わたしもおねーちゃんの方がしっくりくる」
恋人としてのお姉ちゃんはもちろん愛してるけど、お姉ちゃんをお姉ちゃんって呼ばなくなるのはなんか違う。お姉ちゃんで恋人だからこそ今のわたしたちがあるんじゃないかな。
一言で言うと、お姉ちゃん大好きってことだね。……ごめんなさい、いつも通りでした。
ふと、こんな事を思う。
「お母さんって、わたしたちのこと、気づいてるのかな……?」
「気付いてたら何か言うんじゃないの?」
「けど、シーツとかパンツとか夜に干してあっても言われたりしないし……あと、鼻もいいよね?」
「言われてみれば……え? じゃあなに? ママにバレてるってこと!?」
「かも、だよ?」
言われないからバレてないんだと思ってたけど、気づいたとしても言えなくない?
娘2人が恋人同士でえっちなことしてるとか……なんて声をかけていいかわからなくない?
「「………」」
……………。
「さっ、休憩は終わりよっ!」
「うん、そうしよっ!」
立ち上がって魔法術式を構築。
体の負担を減らす術式、
発動してから維持するための術式、
身体能力を強化する術式、
で、最後に魔法として展開。
ここまでが身体強化の手順。
お姉ちゃんが言っていた通り、魔力は多すぎても少なすぎてもだめ。多すぎると制御出来なくて消えちゃうし、少なすぎると弱いだけじゃなくて制御する練習にもならない。
実はもうスキルポイントを使ってみた。
『魔力制御』と『魔力操作』はもちろん、少し気になったことがあったから『鑑定』も。ステータスなんてわたししか無いのに何を『鑑定』するのかなって。
魔力系は基礎項目でまだポイントが振れるみたい。でも、いきなり上手くなるなんてことはないようです。ちょっとだけ期待してたのに。
やる度にコツが掴めてくるというか、才能に手を加えるんだと思えばいいのかな?
それだと『鑑定』とかはどうなるんだって話だけど……あ、ステータスもおんなじだ。今さら!
結局、『鑑定』で何を見れるのか。
他人のステータスが見れます。え? 意味ないって? まあそうだよね。本当は。
お母さんのを見ても名前とかだけなのに、お姉ちゃんの方はステータスポイントをあげられるようなのです。レベルはないからわたしのをね。
予想としては【加護の共有】が理由じゃないかと……うん、それしか無いとも言える。
それはそれとして、魔法にもスキルポイントを使いたい。けれど、未だに決めかねてる。
無属性魔法にするか、それ以外の魔法にするか……ここは慎重に。やり直しは出来ないんだから。
この日は身体強化を展開したまま火を出してみたり風を起こしてみたり、水鉄砲にして出力を調整してみたり、土で原寸大お姉ちゃんを作ってみたりと色々がんばった。
初めてにしては上出来なんじゃないかな?
あ、原寸大お姉ちゃんはもっと練習します。具体的にはシルエットじゃ判別できなくなるまで。
「ただいまー!」
「あ、2人ともお帰り」
「あれ? お父さんが居る! おかえりーっ!」
お父さんを見つけたのでとりあえず飛び込む。
ステータスによって強化されているにも関わらず、少し後ろに下がるだけで衝撃を完全に殺したお父さん。絶対普通の人じゃないと思う。
「こら、危ないからダメだっていつも言ってるだろ?」
「えへへー、ごめんなさーい♪」
「私もあれを身につけないと……」
お姉ちゃん、聞こえてるよ?
嫉妬してくれてるのは嬉しいけど、体格の問題があるから難しいと思うなぁ……いや、お姉ちゃんなら本当に身につけちゃいそう。
うん? 前世が男だったなら抱きつくことに抵抗はないのって? 前世は前世だし、お父さんもお母さんも好きだから。家族のスキンシップです。
「ねーねー、なんでお父さんいるの?」
「ぱ、パパは居ちゃダメってことかい……?」
「ううん、好きだけどね、めずらしいなーって」
「なるほど……大好きではないと」
「それは今さらでしょう?」
「そうだけどさ、一度くらい大好きって言われたいじゃないか」
ごめんね、お父さん。
わたしの大好きは、血の繋がりとか性別を超えた愛のことだから。言ってあげられるのはお姉ちゃんだけ。
「ああ、そうだった。今日は2人にプレゼントがあるんだ」
「「プレゼント?」」
思わずお姉ちゃんと顔を見合わせる。
お父さんがくれるプレゼントと言えば、ちょっと高すぎるレベルものが多い。今年の誕生日プレゼントなんかは5万もするお洋服でした。普通は1000円なのを考えると子供にあげるものじゃないね。円っていうのは、紛らわしいけど向こうと同じ価値じゃないよ? 転生者が広めたんだと思う。
ちなみに、服の素材がなんか凄いらしくて、手触りもいいのに防御力が高いんだって。嬉しいけど、普通の子供には必要なくない?
と、そんな事があるから、何も無い日に突然プレゼント……? ってなる訳ですよ。
「2人にはこれをあげよう」
手渡されたのはお高そうな指輪。
おかしい。いつもは実用性を兼ね備えていて、尚且つわたしたちの欲しいものだったのに。
ただの指輪? お姉ちゃんとお揃いの?
……どうしよう、婚約指輪とか結婚指輪に見えてきちゃう。
「なんでニヤニヤしているんだい?」
「な、なんでもなーい。ねー?」
「も、勿論。お揃いで嬉しいだなんて思ってないわよ?」
お姉ちゃん、それは自白してるようなものでは。むしろ、喜ばない方が不自然かな? いつもラブラブなんだし。
「いつものやつか。……で、パパもお揃いとかは――」
「「だめっ!!」」
「……はい」
お父さんが可哀想な感じになっちゃった。まあ、お母さんが慰めてあげてるからいいよね?
仕方ないよ、お揃いの指輪だもん。
……どっちがお嫁さんなんだろう?
「あれ? なんかこれ、魔力吸ってない?」
「……本当ね。パパ、これは?」
お父さんが言うには、ただの指輪じゃなくて武器になる魔道具なんだとか。魔力を吸っているのは一時的なもので、わたしたちに馴染んだら止まる。
そして、望んだ武器を魔力で形作る。指輪に武器のデータみたいなのが入ってるから、よく分かんないけど強い武器になるらしい。
結論、子供に渡すものじゃない!
「こ、これいくらするのよ……ひゃ、100万円とかじゃないのよね……?」
にっこり。
「お、おねーちゃん、あの笑顔はどっち?」
「わ、わからない……とにかく、扱いには気をつけましょ……」
「う、うん……」
なんだかとんでもないものを貰った気分。
実際とんでもないものかもしれないけど。
貰って大丈夫なのかな? お父さんの職業を知らないからなんとも言えないよぉ……不安です。
でもね、お姉ちゃんとお揃いなのは嬉しい!
お部屋に戻ってから、
「指輪、きれいだね」
「ユーリの方が1000倍は綺麗よ?」
「そんなこと言ったら、おねーちゃんは10000倍きれいだもん」
もう指輪なんて眼中になかった。
お姉ちゃんが可愛すぎてどうでも良くなる。
キスしたり、声を抑えながら指だけで気持ちよくし合ったりと、眠る直前までひたすらイチャイチャしてました。
余談だけど、お姉ちゃんはわたしの尻尾がお気に入りになったんだって。大きくてもふもふで抱き枕にもできる自慢の尻尾ですから。
……触られ過ぎて開発されちゃったりしたらどうしようかなって期待してるのは誰にも言えない秘密。
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