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「先生。今日荷物お宅に置いたら、すぐ失礼しても良いですか?」
その日の教室が終わった後、千都香は片付けに入りながら壮介に尋ねた。
「ああ。何か用事か?」
そう聞かれたが、佐倉の事は、なんとなく言いづらい。メインの用事だけを告げる事にした。
「清子さんちに、遊びに伺う事になってて……夕方また片付けに行きますから」
「そうか。宜しく伝えてくれ」
壮介はそう言うとバケツを持って出て行こうとして、ふと振り向いた。
「……って言うか、それならお前わざわざ来なくて良いぞ、今も後でも。今日器引き取ってった生徒が居たから一人で運べねぇ量でも無ぇし、片付けも……なんなら和史に手伝わせれば」
「そんなの、悪いですよ!長内さんには、お買い物頼んじゃったんですから!」
千都香が言うと、まだ外していなかった三角巾の上からくしゃっと頭を撫でられた。
「じゃあ、帰りだけ寄れ。清子さんの様子も聞かせて貰いたいしな」
「はい。……あ。」
「何だ?」
「あの……さっき、何か言い掛けませんでしたか?始まる前に」
「ああ……それは、今日の夕方……は駄目だな。今度な、今度」
「はい」
壮介の用事は、急ぎでは無い様だ。それなら、それで良い。
千都香は片付けを済ませて帰って行く壮介と入り口で別れると、佐倉と待ち合わせた店に向かった。
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