帰結

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 立岩毅は、壮介や華也子の同窓であること。  陶芸を仕事にしていること。  千都香に漆アレルギーがある事を知っていて、壮介の元を辞めて自分を手伝わないかと誘われていること。 「……その言い方はプロポーズみたいですよってからかったら、そう思ってくれても良いんだけどって言われて……つまり、私はまだそこまで考えられてないんだけど、あちらはそういうつもりが、有るみたいで……だから、華也子さんには、同窓会で、そう伝わったらしくって……」 「だいたい、分かったわ……平取さん?」 「はい?」  話し終えて一息ついていた千都香の息が、佐倉の次の一言でまた止まった。 「その人と、寝てみたら?」 「……え……っ!!!!」  大声を出しそうになった千都香は、自分の手で自分の口を塞いだ。口を塞いで声を出すのを堪えたせいか、顔に血が上り、耳までじんじん熱くなる。 「……さくらさんっ……なんてことっ……」 「何が?そんな、驚く様な事?」 「っ」  千都香が絶句している間に、お待たせ致しました、とオーダーが来た。佐倉の注文した白身魚と季節野菜のオーブン焼きランチと千都香の注文した日替わりランチは、同時に来た。注文はかなり時間差が有ったのに、調理に一番時間の掛かるものと、一番早く出来るものだったらしい。 「聞いてる限りでは、平取さん、立岩さんの事をまんざらでもないと思ってるでしょう?」  頂きます、とオーブン焼きにナイフを入れながら、佐倉が言った。 「……そう、かな……」  千都香はとりあえずランチセットのサラダをつついた。  そういう風に見えるのだろうか。だとしたら、そうなのかもしれない。今の千都香には、自分の事が自分ではよく分からなくなってしまったのだ。 「嫌だったら、すぐ断るわよね?言われた時に」 「あ……そっか……」  メインの鶏肉を、とりあえずナイフで切って口に運ぶ。  確かに、すぐに断る程には、嫌では無かった。 「結婚話が出てるなら、そういう要素は大事じゃないの?中学生じゃ有るまいし……結婚したら、当然する事なんだから。新婚でレスとか、最初からそういう約束じゃ無い限り不幸よ、不幸」 「レスっ…………」  ナイフが滑って、変な音を立てそうになる。 「平取さん、牧先生とも何も無いのよね?」 「何も、ってっっ……?!」  千都香の全身から汗が噴き出した。何も、とは、何だ。佐倉が何を言いたかったのか、考える事すら恐ろしい。 「あんなにべったりしてるのに……」 「べっ……べったり?べったりなんて、してましたっ?!」 「そうよ?気付いて無かったの?お互いを庇い合っちゃって」 「そ……そんな、つもりはっ……」 「私だったら、どっちかと──」 「どっ、ちかっ?!」  へどもどしている千都香に、佐倉は更に追い討ちを掛けた。
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