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毅に話を聞いた時、初めは自分が手伝っても良い席なのかと不安になった。しかし、やりたくても人を頼めず、ずっと出来なかったのだと聞いて、助けてあげたい気持ちになった。長年の付き合いの人ばかり来るので畏まる必要は無いと言われ、それなら、と話を受けた。
そういう場には、なんとなく、洋服よりも地味目な着物の方が良い様な気がして相談に来たのだが……考えが、浅かっただろうか。
「出しゃばり過ぎという事は無いと思いますよ。ねえ、奥様」
考え込んでいる風な清子より先に、麻から応えが帰って来た。麻は、千都香の着付けや茶道の先生でもある。清子の着物の管理も、目が悪くなる前から、ほとんど麻がしているそうだ。
「そうねえ……洋服より落ち着くだろうし、貸してあげるのは良いけど……というか、あげちゃっても、全っ然良いんだけど……」
「……ですねえ……」
清子が困った様に麻を見て、麻も何故か頷いた。
「千都ちゃん?」
「はい?」
「その方と、どういう関係?」
「どういう風に、誘われたんですか?」
「え?関係って……毅さんは、先生のお友達で、」
そこまで言った時、かちゃんと陶器同士が触れ合う音がした。清子がカップを皿に戻したらしい。いつも物音ひとつ立てない清子にしては、その程度の音すら珍しかった。
「それで、私もお友達になって……『超短期バイトだと思って手伝ってくれないか』って、誘われて」
「……それだけ?」
「他にも、何か、言われてませんか?」
「えっ」
清子と麻に口々に聞かれて、千都香は動揺した。
「ど……うしてそう思うんですかっ」
「……それは、ねえ」
「ですよねえ」
これが、年の功というものなのだろうか。千都香が言わない様にしていた事を二人は最初から見抜いていて、だから変な顔をしていたのだろうか。
千都香はお姉様方の炯眼に、おののいた。
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