帰結

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   * 「……これね。」 「これですね。」 「これ……ですか……?」  千都香は清子の家の和室の姿見の前で、鏡の中の自分を見詰めた。  和箪笥の並んだこの部屋は、衣装部屋である。  清子も麻も、着物をたくさん持ってはいるが、自分の着物を譲る血縁者が居ない。その上、二人とも年代なりの小柄な体格のため、今の時代の標準体型の女子に着物を譲るには、寸法が足りない物がほとんどだ。千都香はたまたま清子と体型がそれほど変わらなかったので、清子と麻は何かと理由を見つけては千都香をモデルに着せ替え遊びを楽しんで、それをそのまま着て帰らせていた。 「これ……そんなに、似合ってます……か?」  腑に落ちない、と千都香は思った。  清子と麻の着せ替え遊びで、こんなにもやもやした事が有っただろうか。  渋い茶色の着物を羽織った鏡の中の自分の姿が、どうもしっくり来ないのだ。二人はうんうん頷いているのに、着せて貰った一式に、千都香は微妙な違和感を感じる。 「千都ちゃん。今回のお仕事には、その位が良いのよ。」 「……その位……ですか……?」 「場所と役割に見合った衣装という意味ですよ、千都香さん」  清子が重々しく言った意味がよく分からず首を傾げたら、麻が補足してくれた。 「紋付きですから失礼にはなりませんし、紬ですから持て成す側としての控え目さも出せます。綸子(りんず)や羽二重の様な柔らか物では、少しばかり目立ち過ぎますので」 「……控え目、ですか……」  二人が言うなら、そういう物なのだろう──微妙にしっくり来ないとしても。  麻の説明で、この着物は紬なのかと思った千都香の中に、ふと、疑問が湧いた。
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