帰結

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「一式まとめて包みますね。奥様と居間でお待ちになっていて下さい」 「はい、ありがとうございます。……行きましょう、清子さん」 「ありがとう、千都ちゃん」  日がだいぶ傾いて、廊下が薄暗くなって来ていたので、千都香は清子に自分の肘を差し出した。目の手術をした清子は、暗い所で物が少しずつ見えにくくなって来ている。家の中は慣れているので見えにくくても比較的動けるのだが、小さな段差でつまずいたりしない様に、千都香はこうして清子に時折手を貸している。 「……千都ちゃん?」 「はい?」  二人で居間まで歩きながら、清子がぽつりと呟いた。 「あの結城、もしまた単の時期に先生とお出掛けする機会が有ったら、その時に着て欲しいわ」 「どうしてですか?」 「……どうしても。」  結城は最初に着せて貰った着物で、そのまま千都香に贈られた着物だ。着物を着た理由は漆かぶれの痕を壮介の目線から隠す為で、首になったのを撤回させる為だった。  どうしても、と言う清子の気持ちの中には、その経緯が織り込まれているのだろう。  正式な単の時期は短く、一年のうち二カ月程だ。その短い間に壮介と着物で出掛けられる様な、そんな機会が、この先の自分に訪れるのだろうか。 「……分かりました。結城に、紅型に、赤い下駄ですよね」  下駄を心配した壮介に家まで送って貰った事を思い出して淡く微笑みながら、千都香は清子に当てのない約束をした。
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