帰結

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   * 「こんばんはー、平取でーす」 「来たのか、お前」  千都香が挨拶と同時に上がり込むと、奥からタオルを頭に掛けた壮介が顔を出した。下はいつもと似た様な藍のズボンだが上は白いTシャツで、髪が湿っている。千都香の胸がこっそり跳ねた。 「来ましたよ、片付けに。……お風呂ですか?」 「ああ。今日は仕事は仕舞いだぞ」 「スクールの片付けは仕舞ってないみたいですけど」  作業部屋の隅に置かれた荷物をばらして、所定の位置に片付ける。 「急ぐもんは仕舞った。俺はもう栄養補給のお時間だ」  冷蔵庫に向かった壮介を見やると、案の定、ビールを持って戻って来た。 「栄養って、ビールじゃないですか!!長内さんのお弁当、ちゃんと食べました?」 「食った。」 「でもどうせ夜は食べてないんでしょ?食べないで飲むの、良くなーい!」 「……ペンギンみたいな口きくなよ」  壮介はプルタブを開けながら、嫌そうに呟いた。 「えっ?!先生どうしてそのキャラクター知ってるの?!」 「……知らね。」 「せんせー、ガラケーなのにえらーい!」 「…………千都香。」 「はい?」  軽口を叩きながら片付けを始めていた千都香は、弾かれた様に振り向いた。壮介の声からふざけた色が消えた様に聞こえたからだ。 「……清子さん、元気だったか?」 「ええ。ただ、暗くなるとやっぱり少し不自由みたいです」 「そうか。」  清子の事が気に掛かって居たせいか、と千都香は安堵した。  壮介は、朝、何かを言いたそうだった。それが何なのかは分からない。今度話すと言っては居たが、華也子の事と無関係では無いだろう──佐倉と話した後で、言い出したのだから。 「その大荷物、何だ?」  壮介はビールを飲みながら、横着に顎で千都香の荷物を指した。 「清子さんに借りたんです、毅さんの頼み事に必要だったんで……あ。毅さんに一日限りの仕事を頼まれたんですけど、受けても良いですよね?」 「良いですよねって、どうせもう受けたんだろうが。……着物か?」 「はい。器を置いてくれてる所の担当者さんの、一日お接待係の衣装にどうかなって……人手不足で困ってたそうで」 「……そうか。」  壮介は、そこで黙った。沈黙が不安になった千都香は、軽口に紛れさせて誤魔化して、本音を伝えておくことにした。
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