帰結

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   * 「いらっしゃいませ、ようこそお越し下さいました。……招待状をお持ちでしたら、お預かり致します」  招待客を迎える時間がやって来た。  工房の入り口で毅が送った客の名前入りの招待状を回収して、名札を渡す。名札には所属は伏せられていて、名前だけが書いてあった。  千都香の帯にも「スタッフ・平取(ひらとり)」と書かれた名札が、クリップで挟んで留めてある。  受付を終えた招待客は、奥に居る毅の元に赴いて、挨拶をし、歓談している。  しばらく工房を見て貰ってから、新作を披露しがてらお茶とお茶菓子、軽食等を出すという予定になっていた。  招待客達は、男性はジャケットにパンツや着物に羽織り、女性はパンツスーツや和洋折衷の個性的なワンピースなど、思い思いの服装を纏っている。どういう服を着ている客も、何故か毅と話している姿は様になっている……というのが、千都香には不思議だった。 「良い所を探されましたね。ここ、元々は倉庫か何かですか?」 「今は快適ですけど、夏は暑いでしょうねえ」 「窯の搬入と設置、大変だったでしょう」  客達の疑問に答えたり説明をしたりしながらも、毅は笑顔を絶やさない。前からやりたいと思っていた集まりが出来た事が嬉しいのだろうと、千都香も見ていて嬉しくなった。  そろそろお茶の用意をしはじめようかと思い、千都香が台所に向かうと、招待客の一人が遅れてひょこっと顔を覗かせた。      「何か、お手伝いする事は有りますか?」 「お気遣いありがとうございます。今のところ、大丈夫です」  参加者の中でただ一人、千都香と年の近そうな若い女性だ。  彼女は確か、本橋涼花(もとはしすずか)と言う名だった。
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