帰結

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「これ、本橋さんに頂きました!お手伝いする事は有りませんかって、仰って下さって」 「そう」  毅は千都香の持っている包みを見て目を細め、本橋の方に向き直った。 「これは、あのお茶ですか?いつもお心遣い頂いて、有り難うございます」 「いいえ。喜んで頂けて、嬉しいです」 「この前のお茶と違うものを、わざわざ選んで下さったそうですよ!前のは紅茶で、これは緑茶なんですって」 「へえ……それは珍しいなあ」 「毅さん?本橋さんも」  千都香はお茶を大事そうに抱えたまま、二人に順番に目をやった。 「お持たせで、申し訳無いんですが……これをみなさんにお出しする事にしても、宜しいですか?珍しいお茶を、みなさんにも召し上がって頂きたいなって」 「ああ、俺は良いと思うけど……本橋さん、宜しいですか?」  千都香の願いと毅の問いを聞いた本橋は、にっこりと微笑んだ。 「もちろんです。先生の器で皆さんに飲んで頂けるなんて、光栄です」 「ありがとうございます!支度しますね」  千都香は、ポットの仕舞ってある棚に手を伸ばした。あまり使う事が無いからか、少しだけ背伸びして手を伸ばさないとポットには届かない。(たもと)を抑えて手を伸ばしたが、棚が高過ぎて白い二の腕がちらりと袖から覗いてしまった。 「っ千都香さんっ?!」 「平取さん、私取りましょうか?」 「はい?……あ」  この場で一番背が高い毅は何故か固まって動かず、二番目に背の高い本橋が千都香の手の先のポットに手を伸ばした。 「これで良いですか?」 「ええ、それです!どうもありがとうございます」 「いいえ。高い棚ですし、お着物ですと余計に手が届きにくいですものね」  柔らかく微笑まれ、千都香は頬にほのかな熱が上った。  ショートカットに控え目に輝くピアスをした本橋は、すらりと背が高い。男女を問わず好感を持たれそうな清潔な雰囲気は、いかにもばりばり仕事が出来る女と言うよりも、しなやかに卒なく何でもこなしそうな女性だった。 「本橋さん、有り難う」 「いいえ。お安いご用で御座います」  毅に頭を下げられた本橋は、くすっと笑いながら胸に手を当て軽く膝を折り、大袈裟にお辞儀をした。 「本橋さんも、着物をお召しになる事が有るんですか?」 「ええ。十代の頃から、ずっとお茶を習ってるんです。受験が有ったり忙しかったりで、飛び飛びですけれど」  女二人はそのままお茶の用意をしながら、楽しげに話し始めた。ちょうどその時、毅に工房に居た客から声が掛かって、名残惜しげにそちらの方に戻って行った。
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