帰結

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   * 「今日は本当に有り難う、千都香さん」 「いいえ。楽しかったです、お友達も増えたし」  毅と千都香は招待客達が帰るのを見送った後の工房で、片付けをしていた。 「夢……っていうか、目標だったんだ。お世話になってる人達を招いて、創作してる現場を見て貰うのが」  毅は高揚していた──と言うと単に催しが無事成功した事に酔っている様に聞こえるが、実は実際にも酔っていた。  招待客の中には、本橋以外にも手土産を持参した者が何人か居た。そのうちの一人がシャンパンを持って来ていて、せっかくなのでとそれを開けて乾杯をしたのだ。  グラスではなく、毅の作った湯呑みやフリーカップを使って飲んだシャンパンは口当たりも良く非常に美味しかったのだが、酒に弱い毅はお開きになってからアルコールが回ってきた様だった。 「こんなに上手く行ったのも、千都香さんのおか……っと」 「大丈夫ですか?」 「……うん。」  ふらついた毅を手近の椅子に座らせようと、千都香が毅の手を引いてくれた。しかし、椅子まで来ると思い直したらしく、少し遠くのソファまで連れて行かれた。  椅子は背もたれが有るが、肘掛けは無い。たとえバランスを崩してふらついても、転がり落ちそうに無いソファを選んでくれたのだろう。その配慮の可愛らしさに、既に緩んでいる毅の頬は更に緩んだ。 「ありがとう。……おかしいな、さっきまで平気だったんだけど」 「もう後は私がやりますから、座ってて」  甲斐甲斐しくマグカップに水を汲んで来て、渡してくれる。毅は苦笑して一息に飲んだ。 「……ごめん、何もかもやらせて」 「いいえ。毅さんの今日のお仕事は、みなさんの接待でしょう?それは満点で終わらせたんですから、片付けくらい任せて下さい。だから、謝らなくても良いんです」 「……千都香さんは、優しいなあ。壮介が羨ましいよ」 「え?先生?」 「ああ。千都香さんが近くに居て、手伝って貰えて、勝手なこと言って、下らない事でからかって……羨ましいと言うか、(ねた)ましい、かな」  千都香が持ってきてくれた二杯目の水を、毅は、ありがとう、と受け取った。
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