帰結

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「そう?正直な気持ちだけど」  マグを覗き込む様にして、毅は呟いた。 「千都香さんにとっては、どんな俺が、俺らしいのかな」 「それは……穏やかで、」  千都香は一旦口籠もり、目だけ上の方を見ながら一生懸命考えた末、ぽつぽつと単語を並べた。 「優しくて、いつも笑いかけてくれて、助けてくれて、お酒に弱くて…………先生みたいに憎たらしい意地悪言う毅さんなんて、想像も出来ませんよ」 「……そうか。」  壮介が千都香をからかうのを羨ましいと言ったせいか、千都香は考えた末に後半を付け加えて、くすりと笑った。  毅は水を飲み干すと、立ち上がった。マグを持って、千都香の側に行く。 「お水汲みますか?」 「……いや」  皿を片付け終えた千都香は毅に手を差し出したが、毅は冷蔵庫のドアを開けた。 「二人で、乾杯しないか」 「飲むんですか?!」 「……これも、想像も出来なかった?」  からかう様に言ってビールを取り出した毅を見て、千都香は目を剥いて驚いた。 「一本だけ、打ち上げの代わりだ。これを二人で分けるだけだから、一人一カップも無い。大丈夫だろ」 「……これだけですね?二缶目は、無しですよ?」 「分かってる」  上目遣いで睨んでくる千都香は、怖いどころか抱き締めたくなる位可愛らしい。  いつも飲み過ぎを咎められている壮介はこんな気分なのか、と毅は苦笑した。  千都香が新しいカップを二つ出してくれた。千都香がマグカップを洗う間にソファに戻ってプルタブを空け、半分ずつ注ぐ。カップに満杯になるには程遠い量しか入らない。 「お待たせしました」  割烹着を脱ぎながらやって来た千都香が、ソファに腰掛けて襷を外した。それらを軽くまとめて傍らに置くと、ビールの入ったカップを持った。 「今日は本当に有り難う。……お疲れ様」 「お疲れ様でした」  ほんの少しカップを触れ合わせて、口を付ける。毅はそのまま全て飲み干したが、千都香は軽く一口飲んで、カップを置いた。
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