帰結

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「大丈夫です?」 「ん?」  千都香が心配そうに毅の顔を見た。 「目が赤いですよ?お水、もっと飲んでおいた方が」 「大丈夫だから、ここに居て」  毅は立ち上がろうとした千都香の手を引いて止め、千都香はバランスを崩して毅の方に倒れ込んだ。 「あ……すみませ」 「今日来てた何人かに、聞かれた」  倒れ込んだ千都香を抱き留めたまま、毅は千都香に囁いた。 「千都香さんは恋人なのかとか、結婚するのかとか、婚約者なのかとか」 「こっ」  千都香は真っ赤になって、言葉に詰まっている。  本当に、(うぶ)で、素直で、正直だ。毅が今日の仕事を頼んだ意図を、深読みしたりはしていないのだろう。  千都香に話した、前々からやりたかったというのは本当だが、千都香に手伝いを頼んだ意図は、その他にもふたつ有った。  ひとつは、毅の知人の中に、千都香の知り合いを作ること。千都香がここに来ることになったとしても、誰も知り合いが居ないという事にならない様にする為だ。  本橋と楽しげに話していたし、他にも何人か気の合った人々が居た様だから、目的はそこそこ達成出来た。  もうひとつはその反対に、千都香を毅の周りの人々に紹介すること。それも、出来れば将来のパートナー候補として、顔見せしておくことだった。  これも、千都香にはその気は無くとも「恋人ですか?」「婚約者?」などと質問が出た時点で、毅の目的は叶っている。 「……こ、まりますっ」  千都香は耳まで真っ赤にして、顔を伏せた。顔を伏せると一層毅に抱き付く様な形になる事に、千都香は気付いているのだろうか。 「困る?どうして」 「だって……あ、」  そこでやっと、毅との距離の近さに気付いたらしい。千都香は離れようとしたが、それには毅の胸に手を付かねばならない。胸に手が触れそうになった所で毅が自分の体を引くと、千都香は支えを失って、体ごと毅に預ける形になった。  結果的に、二人はまるでソファの上で抱き合っている様な格好になってしまった。
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