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「あ、ごめんなさいっ……やだ、そんなつもりじゃ」
「嫌か……?」
「え?……っ!」
今着ている服には毅も袖が有り、千都香も袖と帯が有るので、普通に抱き締めるのは難しい。胸にもたれている肩に手を回して、もう片方の手で頬に触れると、千都香は小さくぴくりと震えた。
「……そんなつもりじゃ無いんなら、どんなつもりだった?」
「それは……ぁ……」
頬から首筋に指を滑らせて撫でる。軽く開いた下唇の下に親指を沿わせてなぞると、意図した訳では無さそうな小さな声と吐息が漏れた。
「今日手伝ったらこんな関係だって思われるだろうって、全然想像しなかったのか」
「……っ…………ごめんなさいっ……」
千都香の目が急に潤んで、泣きそうな顔になった。少しでも動いたら、涙が零れてしまいそうだ。
ごめんなさい、と千都香は言った。
どんな意味で口にした「ごめんなさい」なのか──今、深追いするのは得策ではなさそうだ。
「……ごめん。悪かった」
「……え?」
毅があっさり引いたせいか、涙を湛えたままの目を千都香はきょとんと見開いた。
「俺だって意地悪くらい出来ると思ったんだが……慣れない事は、するもんじゃ無いな」
「……意地悪くらい、って……」
眉間に皺が寄った千都香の両肩に手を掛けて自分から引き剥がし、なんとかまっすぐ座らせる。
「そろそろ、帰るだろ?忘れ物しないように、ちゃんと荷物持って。帰ったら鍵掛けるから、玄関まで送……」
毅は、立ち上がろうとしてふらついた。追加のビールが思ったよりも効いたらしい。
「毅さん?!」
「悪い。大丈夫だから、帰りの準備を」
「私の事なんて気にしてる場合じゃないですよ!大丈夫ですかっ?」
「……大丈夫……じゃないな……約束破って飲んだのと意地悪で、罰が当たったかな」
貧血で倒れる手前の様に、顔から血の気が引いて全身の血が下がった気がする。
目を開いてると目眩までし始めて来て、目を閉じた。
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