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酔って絡んで、セクハラまがいに勝手に触って、意地の悪い事を言って泣かせかけた。
これじゃあ愛想を尽かしてさっさと帰るだろう、と思ったのだが。
「これ、倒れるソファですよね?」
「え?」
座って丸くなっていた毅は、驚いて顔を上げた。
「ちょっとだけ、どいて」
「えっ」
千都香は置いてあった襷をまた掛けると、割烹着は着ずに立ち上がった。
そして、ソファからクッションをどけて毅を端に押しやると、背もたれの後ろに回った。
「……んしょっ、~~っ!」
「っわ」
千都香が背もたれを思いっ切り前に倒すと、カチッと音がした……と思うと同時に背もたれが後ろに倒れて平らになって、毅はひっくり返りそうになった。
「……出来たっ、ベッド!……ほら、寝てくださいっ」
「え……」
呆然としている毅をよそに、千都香はぜいぜいしながら、一人掛けのソファやオットマンをずるずる押して移動させてくっつけて、毅が寝ても足がはみ出さないサイズの簡易ベッドを作ってしまった。
「千都香さん……意外と、力持ちなんだな……」
驚きのあまり、横になっても座っても居ない半端な姿勢のままで居た毅は、千都香の奮闘振りを見て呟いた。
「そんなの良いから、大人しく寝てっ!……あ、待って……その前にお水飲んで、持って来るから」
「あ」
ありがとうを言う間もなく、千都香が消えた。
そしてあっという間にマグを手にして、戻って来る。
「はい。これ飲んで、落ち着くまで横になってて下さい」
「……ごめん。有り難う。」
言われた通り水を飲んで横になると、目の前がぐるぐるするのが少し和らいだ気がした。
「ごめんて言う位なら、飲み過ぎないことです。」
頭の下に枕代わりにクッションを入れられながら、怒られる。
「壮介も、こうやって面倒みて貰ってるのか?」
「まさか!先生は、私の言う事、聞きませんもん。毅さんみたいに素直じゃないし、全然大人しく面倒みさせてくれないし」
「へえ……」
だとすると、壮介は千都香にいつもこれ以上に怒られているのだろうか。
毅は千都香に怒られたのが、なんとなく嬉しかった。毅に対する千都香の遠慮が、薄くなった気がしたのだ。
怒られて幸せを感じるというのもおかしなものだが、 思わず笑いが漏れてしまって、千都香に変な顔で額に手を当てられた。千都香の柔らかくひんやりとした掌は、酔い覚ましにはちょうど良い。
毅はふわふわと浮付いた頭のまま、ゆっくりと目を閉じた。
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