帰結

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  * 「……ん?」 「あ。起きました?」  気が付けば、しばらく眠っていたらしい。毅が起きようとすると、上に掛かっていた物が滑ってずれた。見ると、それは千都香の道行きだった。 「掛けてくれたのか。ありがとう」  毅が尋ねると、洋服姿の千都香はぺこんと頭を下げた。 「いえ、ごめんなさい。毛布とかどこにあるか、聞いてなかったから……寒くなかったですか?」 「いや、全然……それより、もう帰らないと」 「行っちゃいました、終電。」 「え」  千都香は毅が起きるのを手伝いながら、さらりと言った。 「帰らなかったのか?!」 「こんなへろへろの人放っといて帰れません」  驚いて千都香を見ると、赤い顔で唇を尖らせている。 「……酔っ払って良かった……」 「良く有りませんっ!」  思わず零れた本音を、間髪入れずに怒られる。 「ごめん。言うこと聞いて大人しくするから、居てくれると助かる」  頭を下げた毅に、千都香は困った様に笑った。 「居ますよ。もう、タクシーじゃないと帰れませんし……とりあえず、また水飲んで。おトイレ行って、あと、もうお布団で寝た方が良いかも」 「分かりました」  さすがと言うべきか何と言うべきか、てきぱきと指示される酔っ払いの扱いが、妙に手慣れている。  言われた通り水を飲み、トイレに行き、毛布を部屋から持ち出して、先程寝ていたソファに戻った。 「え?またここで寝るんですか?」 「部屋で寝たら、一緒に寝てくれる?」  半分本気で軽口を叩くと、上目遣いで睨まれた。 「……今から、タクシー呼んで帰りましょうか……」 「ごめん。ここで寝たら千都香さんが居てくれるから、夜中に何か有っても安心だと思って」 「何か?」  眉を顰める千都香に、深刻そうな顔を作った。 「急に、具合悪くなるかもしれないし」 「えっ」 「ここに布団も持ってくる。どっちが良い?ソファベッドでも布団でも、千都香さんが好きな方で寝て」  千都香はますます眉を顰めたが、最終的には「ソファが良いです」とぼそぼそ言った。 「着替えも貸そうか?風呂は?」 「どっちも、大丈夫です。着物は、着替えましたし……毅さんはまた寝てください。あんなこと言うなんて、まだ全然アルコール抜けて無い証拠ですよ」 「どんな事?」 「……一緒に寝ようとかっ!!」  とぼけた毅に、千都香はますます真っ赤になってムッとしながら言った。 「良いですかっ?酔っ払ってるからって変なことしたら、タクシーじゃなくてパトカー呼んじゃいますからねっ」
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