帰結

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「大丈夫です。……っていうか、ごめんなさい、あちこち探っちゃいました」 「いや。別に、探られて困るものとか無いし」  別の所にもほとんど無いが、特に、台所だ。千都香に見られて(やま)しい物など、何も無かった。 「調味料もですけど、ちゃんと食べられる物が入ってる冷蔵庫で、感動しました」 「あはは!壮介のとこと比べたらなあ……野菜とか、近所の人から貰うんだよ。この漬け物も、貰い物。」  毅は、小鉢の漬け物を一切れ摘まんで見せた。 「それ、田舎あるあるですよね!これ見て、そうだろうと思いましたもん!!」  千都香は千都香で、味噌汁に入っている青菜を摘まんで見せた。 「ああ、分かった?間引いた大根。帰ってくると色々戸の前に置いてあるんだけど、誰がくれたのか分からないんだ」 「そうそう!おんなじ野菜を毎日違う人が置いてったりとか」  毅の顔はますますほころんだ。千都香の嬉しそうな顔を見ていると、毎日食べている間引き菜が何倍も美味しい様な気がして来る。 「ここに来てから、きゅうりの食べ方にやたらと詳しくなったよ。あと、渋柿干したり」 「ですよねー!懐かしいです、実家みたい!」 「……ここを新しい実家にしてくれても、良いんだけどな」  ぽつりと本音を挟んでみると、千都香は黙った。 「住むとこ決まった?更新するの?」  似ている様で違う話題を振ると、薄く笑って口を開いた。 「気にして下さって、ありがとうございます。更新は、しないことに決めました」 「従姉さんとこに住むの?」 「……いえ。仕事に通いやすい、新しいとこを探します」 「そうか」  千都香の言っている「仕事」は、壮介の家と担当している教室だ。自分の頼みごとは千都香にとってまだ「仕事」では無いという事が、毅には少しやるせない。 「出来れば、ここにも通いやすい所だと有り難いな。昨日は好評だったから、またお願い出来ると凄く助かる」  なるべく軽く言ったつもりだったが、千都香は、また黙ってしまった。  招待客に恋人かと聞かれた千都香が二度目も接待をしていたら、友達だと言ったとしても信じる者は居ないだろう。
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