帰結

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  * 「ただいまー……」  誰も居ない家に帰り着いた千都香は、まず、部屋の窓を開けた。  昨夜帰って来るつもりだったので、やることが溜まっている。  まず、壮介の所に顔を出し、来週のスクールの打ち合わせをしなくてはいけない。本当はその前に不動産屋を回るつもりだったが、それは別の日に延期だ。  それから、清子に着物を返しに行く。すぐ返さなくても良いと言われたが、大事なものなら少しでも早く手元に届けたい。  とりあえず着物のハンガーを出し、着物と帯をそこに掛ける。風を通して、汚れが無いか点検する為だ。それから小物と長襦袢を手に取って、考えた。 「着物以外は、返さなくても良いわよ?」  この一式を借りたとき、清子はそう言っていた。 「長襦袢や帯や小物は、別の着物にも使えるでしょう?」 「でも……清子さんが着るときに、困りませんか?」  そう尋ねると、清子は柔らかく微笑んだ。 「もう、それほど着ないしねえ。本当は着物もあげ」 「大丈夫ですよ。奥様にはこの着物に合う別の帯や小物も有りますから……その帯や長襦袢は、奥様や私には少し若いですし」 「え。若いとか、有るんですか?」  麻の言葉は、千都香には驚きだった。  「ええ。同じ着物でも、小物で雰囲気が変わりますからね。そうやって長く着られるのが、着物の良い所です」  ……そう、言われたのだが。  着物が思い出の物ならば、一式全てに思い出が有るのではないのだろうか。 「……お風呂入ろ……」  昨日の朝に入浴した後、毅の家では着替えはしたが風呂もシャワーも使っていない。いくら毅が眠っていても、裸になるのは気が引けたのだ。  考えても結論が出ない事は後回しにして、千都香は今日の外出前に一日ぶりの入浴を済ませる事にした。
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