帰結

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   * 「こんにちはー、平取でーす」 「おう」  玄関を勝手に開けると同時の挨拶に、珍しく返事が返ってきた。壮介は今、特に集中が必要な仕事をしている訳では無いらしい。  勝手に上がって、納戸で支度する。今日は作業はしないので、着替えは多少控え目だ。服はビニール袋に詰めて、メモ帳と買ってきた食べ物だけ持って作業部屋に向かう。  壮介は、割れた陶器の欠片を水研ぎしている様だった。手を抜いて良い訳では無いが、漆を扱ったり金銀を扱うよりは気が楽な工程だ。  それをちらっと確認して、台所に入る。相変わらず、千都香が買った物以外にはビールしか入っていない冷蔵庫だ。  買ってきた物を中に詰めていると、壮介が独り言の様に言った。 「……毅んとこの仕事は、上手く行ったのか?」 「盛況でしたよ。お仕事関係者って言っても、親しくお付き合いしてる方ばっかりの、和やかな集まりで……けど、人が多かったから、お手伝いはやっぱり必要だったみたいです」 「……へぇ。お前で大丈夫だったのか?」 「大丈夫でしたよ、ちゃんとお役に立ちましたから!評判良かったからまた宜しくって言われましたし、お友達だって出来たんですから」  お友達とは、本橋の事だ。帰る前に、お互いの連絡先を交換した。本橋は前から金継ぎに興味を持っていたらしく、千都香が現在修行中だと知って話を聞きたいと言って来たのだ。  本橋の職場は新宿で、自宅もそれほど遠くはないらしい。一度ランチかお茶でもしようと言う事になっている。 「……そりゃ、良かったな」  作業中だから仕方ないが、質問して来た割には聞いているのかいないのか、お座なりな相槌が続く。 「先生、ご飯食べてませんよね?」 「……食ってると思うか?」 「思ってないから、お弁当持って来ました。今食べます?」  弁当屋の袋を掲げるが、壮介は目も向けない。 「……お前は?」  音で分かっただろうと思って弁当をテーブルの上に戻すと、また生返事が返ってきた。 「私はまだお腹空いてません、朝ちゃんと食べましたから」 「……食って来たのに弁当持参か。よく食うなー」 「好きで食べて来たんじゃ有りませんよっ!毅さんちで作ったんだから仕方ないでしょ!!」  生返事の癖に繰り出される減らず口に、千都香の怒りが爆発した。
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