帰結

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  * 「お前、そろそろ正式に辞めろ。」 「……はい?」  突然、何の前触れも無く、何の特別な事も無く、「今日の弁当の中味は何だ?」と言う様な調子で言われた一言を、千都香は聞き返した。 「よし、決まりな。二度と(うち)の敷居は(また)ぐな。……今やりかけてるもんは無かったよな?ちょうど良かった」  こちらに目も向ける事無く勝手に畳み掛けられる言葉の数々に、初めは唖然としていた千都香の中に、次第に怒りが湧いて来た。 「先生、何言ってるんですかっ?!何が『よし』なのっ?!」  憤慨したまま歩み寄ると、壮介は座ったままで千都香を見上げた。千都香が見上げるいつもの位置とは、反対だ。 「お前、さっき辞めろって言った時、『はい』って返事したろ。」 「はあ?!あれは相槌でしょ、相槌!!どんな屁理屈?!」 「屁理屈だろうが納得しなかろうが何だろうが、お前は今日で俺んとこは首だ。短い間、お疲れ様でした。」  そう言うと壮介は、また千都香から机の上の仕事に視線を戻してしまった。 「待って……今日で首、って……来週の打ち合わせも、何もしてませんよ?!そんなに急に首って言われても……それに、私を首にして、先生これからどうするんですか?!」 「……何様(なにさま)だよ、お前。」  じろっと目だけで千都香を見た壮介の放った言葉の響きの冷たさに、千都香の背筋がぞくりと震えた。
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