帰結

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「首なんだから、俺がこれからどうしようが、お前に関係無ぇだろうが」 「……でもっ」 「よーく聞けよ。お前が来てから、まだ、たった、一年だ。その前も俺はずっと仕事をしていたし、これからも同じだ。一人でも、お前以外の人間とでも、仕事は出来る」  千都香以外の人間という中には、華也子も入っているのだろうか。  華也子を嫌っていた壮介だが、またいつか一緒に仕事をするつもりなのかもしれない。金継ぎを仕事として認めなかったのが別れた原因の一つだと言って居たが、今の華也子は佐倉に仕事を頼みに来るほど、変わったのだ。別れた原因が無くなったなら、復縁する事も有るのだろうか。 「教室やらホームページやらの件では、確かにお前の世話になった。それは、本当に感謝している。だが、お前が俺んとこでどんなに戦力になろうが努力しようが、お前と同じ実力の奴が来たら、お前は負ける。理由は、分かってんだろ」 「それは……前に、」  勿論分かっている。漆を扱う仕事だというのに、酷く漆にかぶれる体質──仕事以前の問題だ。だが、そんな事は、今更ではないのか。休みから復帰する時に話し合って、壮介も条件付きながら納得してくれた筈だ。 「前とは状況が違うだろうが。お前、新しい仕事先が出来たよな?」  面倒くさそうに言われた千都香は、驚愕した。毅の仕事を手伝った事が、首の理由になると言うのか。 「お前の行き先が無いならともかく、ちゃんと役に立てる場所が出来たんだよな?お前がそっちに行く方が、俺も助かるしヤツも喜ぶ。お前だっていちいち面倒くせぇ重装備なんかしねぇで済むだろうが。万々歳だ」  俺も助かる、と、壮介が言った。  千都香が毅の元に行く方が、助かる、と。 『あなたが漆を扱い続ける事は壮介にとって大変な迷惑だと言うことを、よく考えてみて』  華也子に言われた言葉が、呪いの様に蘇る。  千都香が壮介の元に居るのは迷惑だと──それも、大変な迷惑だと、華也子は言った。 「……私が居るの、迷惑ですか……?」 「迷惑じゃ無いとでも思ってんのか」  否定して欲しいという甘えが透ける卑怯な問いは、即答で切られた。
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