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しばらく涙が流れるに任せていた千都香は、感情の波が引くのを待って、ぐちゃぐちゃになった顔をティッシュで抑えてお絞りで拭いた。
それから、麻の淹れてくれていた紅茶を飲んだ。熱くも冷たくもなくなった紅茶は、涙と同じくらいの温さだ。
決められない、と毅に断ったばかりなのに、決められなかった理由を、失くしてしまった。
次にかぶれるまでは辞めなくて良いと許したものの、壮介はずっと困って居たのだろう。毅からの仕事の話は、渡りに船だったのかもしれない。それが上手く行ったと聞いた途端に、さっさと辞めてあっちへ行け、と言われたのだから。
次が決まってから放り出したのは、一度引き受けた責任の為か、壮介なりの優しさだったのか。
また涙が出そうになって、千都香は何度か深呼吸した。このままぐずぐず泣いていたら、そのうち頭痛がして来るだろう。それよりも、明日の顔が悲惨な事になる。明日は、ビヤホールのバイトが有った。明日だけは、木村や田仲に問い詰められる様な顔には、なりたくない。
「すみません。清子さん、麻さん」
一生懸命涙を止めて、少し落ち着くのを待って、千都香は居間から廊下に出た。
そして、誰もいない廊下で一度笑顔を作ってみてから、席を外してくれていた二人を呼んだ。
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