帰結

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   * 「空の色が、真冬と変わって来ましたねー」 「うん。だんだん霞みがかかって来るから、遠くの山が見えにくくなるな」  もうすぐ帰ってしまう千都香と、散歩に出ている。この辺りの景色を気に入っている千都香の、遊びに来た時の定番コースだ。 「……住むとこ、決まった?」  壮介以外に気になっているもう一つの件を、さりげなく話題に出す。 「もうすぐだよな?更新」 「……とりあえず。」 「従姉さんのとこ?」 「内緒です。でも従姉には、あの後一度断られてますよ。条件が合わない、って。」 「内緒か。……誰にも言わないのになあ」 「すみません。前にも言いましたけど、ちゃんと決まったらお知らせしますから」 「まだちゃんと決まってないんだったら、越して来ないか?せっかく片付けてるんだし」 少しだけ申し訳無さそうな千都香に、軽く言う。 「ありがとうございます。ビヤホールのバイト、まだ辞められそうにないので」 「別に、ここから通っても構わないだろ」 「そしたら遅番に入れなくなっちゃう」 「間に合ったけどなあ、終電」 「お客さんと従業員は、違うんですよー」  ビヤホールに寄って千都香が上がるのを待って帰った時の事を思い出して言ってみたのだが、苦笑いで返された。 「遅番希望の新人さんが入れば良いのになあ」 「募集は、してるんですけどねー。バイト獲得は激戦なんです、常に人手不足な街だから」  くすくすと笑う千都香は、堪らなく愛らしい。今一緒に居られる事の喜びが込み上げて、毅は衝動的に囁いた。
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