帰結

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「もちろん覗いたりしないし、絶対変な事しない。約束する。破ったら、絶交していいから」 「絶交……小学生ですか」 「絶交じゃ不安なら、訴えても良いよ。……はい、タオル。」  そう言って千都香を風呂場に続く洗面所に押し込んで、漆に触った場所をシャワーで流させた。もちろん、約束は厳重に守った事は言うまでもない。  千都香によると、かぶれる時は漆に触った場所だけでなく、他の場所にも出るらしい。しかも、すぐに出るのではなく、数日してから出ると言う。 「しばらくの間は、気を付けないと……何か有ったら、すぐ連絡して」 「はい。ありがとうございます」  ぺこっとお辞儀した千都香から、自分と同じ石鹸とシャンプーの匂いがする。同じ物を使った筈なのに甘く感じるのは、自分の錯覚か思い込みのせいか、千都香のもともとの香りのせいか。 「……このまま、一週間くらい泊まって行く?」 「毅さん?変なこと言わないって、約束しましたよね?」  上目遣いで睨まれた。頬が赤いのは、日が傾いて来たからか、風呂上がりのせいか、恥ずかしがってくれているのか。 「……千都香さんが風呂入ってる間に、飲んで酔っ払っときゃ良かったなあ。酔っ払いには、優しくなるから。」 「ダメですよっ!わざと飲んだら、本気で怒ります!お酒弱いんだから、飲み過ぎ禁止!……それに、」 「ん?」  急に俯いて、声がごにょごにょと小さくなる。 「……今日、着替えとか、持って来て無いし……」 「え」  毅が驚いて千都香を見ると、耳まで赤くして、唇を尖らせている。視線は俯いたままこちらを向いては居ないが、逆に目が合ったら逃げ出しそうに真っ赤っ赤だ。 「……そういう時は、ちゃんと、事前に……だって、いろいろ、準備が……」 「……分かった。今度は、事前にお願いする」  帰ろうか、と手を取って指を絡めると、きゅっと握り返してくれる。そんな事さえも愛しくて、毅の顔は更に緩んだ。
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