帰結

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「……ばっかじゃないの。だって、それが毅さんの仕事でしょ……?」  自嘲して、紙袋を置いた。  下らない感傷で、毅が真剣に取り組んでいる仕事に勝手に淋しさを感じるなど、自分はどれだけ我がままなのか。  器の欠片は紙袋でなく、きちんと箱で梱包したら段ボール箱に仕舞えるだろう。何か適当な箱は無いかと、千都香はまだテープでは止めずに簡単に閉めてあった段ボールを開けた。 「……あ……」  その箱の一番上には、鮮やかな鬱金色の風呂敷包みが乗っていた。中は、見なくとも憶えている。清子に最初に譲って貰った着物一揃えだ。 『迷惑じゃ無いとでも思ってんのか』  凪いでいた胸の底に、ざわざわと波が立つ。  包みの端からちらりと見えている帯揚げの艶やかな茜色が、治ったと思い込みたかった傷痕から生々しく流れ続けている、自分の血の色の様だった。 『もしまた(ひとえ)の時期に先生とお出掛けする機会が有ったら、その時に、着て欲しいわ』  藍の結城に、紅型の帯。  清子との約束は、守れなかった。  単の季節は、まだ先だ。その頃には、これを着て壮介に会いに行ける千都香ではなくなっているだろう。  もう二度とこの結城を着ることも、あの下駄を履く事も無いのかもしれない。そう思ったから、この包みはこの箱に入れたのだ。一度閉めたら、当分開けない段ボール箱。落ち着き先がはっきり決まるまで、もしかすると何年も開けないかもしれない箱だった。 『コートを着て行けば汚れませんし、多少おかしくても分かりません』  麻にこの前言われた事を、千都香は急に思い出した。あれは、わざわざ出先で着替えずに、家から着て行けという意味だったが。 「……多少おかしくても、分からない……?」  壮介の何にもなれないと清子と麻の前で言った千都香にも、まだなれるものが、一つだけ有った。  千都香は風呂敷包みを取り出すと、必要な物を探し始めた。
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