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「……えっと……お茶でも……?」
部屋の扉の前で鍵を出しながら、千都香が口籠もる。
「いい。腹一杯だ、お前もだろ。それに、疲れてんじゃねぇか?着慣れねぇもん着たし、」
「……はぁ……」
それにあんなに泣いたしな、と言う部分は、口から出る前に止めた。藪蛇になっても困る。
「無理しねぇで、早くそれ脱いで寝ろ」
「ぬっ!?」
変な掛け声と共に扉を開けた千都香に続いて、玄関に入る。
「これ、ここで良いか?」
「あ」
千都香の前を横切って、紙袋を廊下の隅に置いた。千都香は何故か、固まっている。ぴくりとも動かない。
「……『あ』?」
「……っりがとうございますっ。カード、取ってきますっ」
千都香は下駄をもたもたと脱いで、ぱたぱた廊下を走って行った。
その背中を見送った先の壁に、カードケースと同じ変なクマがデザインされたカレンダーが掛けて有るのを見付けて、壮介の口元はおかしそうに緩んだ。
「はい、これっ。無くさないで下さいね」
戻って来て渡されたカードの右隅では、ペンギンがきょろりとこちらに笑いかけながら手を振っている。
「……おう。ありがとな」
「けっこうチャージしてありますけど、無駄使いしちゃダメですよ?……ビール一本位なら、許します。」
「買わねえよ、人のカードで」
カードの中央に、ヒラトリ チヅカ様と記名が有る。画面に名前は出ないだろうが、女の名前が書いてあるカードをレジで使うのは、気恥ずかしい。
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