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「こちらを直して頂けますか?」
来客用のソファに通されて、早速持ってきた割れ物を見せる。
「……毅のか?」
「はい」
三つに割れた、毅の皿だ。このままにするのは忍びないが、千都香は自分では直せない。
「これ、毅は知ってんのか?」
壮介にじろりと睨まれる。慣れている千都香はその程度では怯まない。むしろ懐かしくて笑いたくなる位だ。
「ええ。毅さんが割ってたのを、譲って貰いました」
ソファの背もたれに両腕をかけてふんぞり返っている壮介は、千都香の答えにあからさまな舌打ちをした。
「そんな事じゃなく、お前があいつの失敗作の繕いを頼もうとしてることを、知ってんのかって意味だ。あいつの仕事は完品の芸術品を世に出す事だ。疵物を繕った品が出回るのは、本意じゃねぇと俺は思うが」
「分かってます。でも、私には、直せませんから」
千都香が微笑むと、壮介は憮然とした。
「俺が断ったらどうすんだ」
「佐倉みずほさんにお願いします」
「あいつにゃまだ荷が勝ちすぎだろ」
しばらく、沈黙が落ちた。
「……承知致しました。」
それを大儀そうに破ったのは、壮介だった。
「こちらの繕い、お受け致します。……金で良いのか?」
「ええ。三号くらいの丸粉にして下さい」
「面倒臭ぇな」
「毅さんのお皿ですよ?品に見合う様に丁寧に繕って下さいね」
「畏まりました。見積もりは後日、お友達価格にしといてやるよ。話は終わりだ、お帰り下さい」
「……お客様に、お茶も出してくれないの?……私に、嫌がらせ?」
さっさと話を畳んで立ち上がった壮介に、千都香は唇を尖らせた。
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