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「はい?何か?」
頭を上げかけた千都香の首の後ろを、壮介が眉を顰めて指差した。
「そこ、また赤くなって無いか?」
「えっ?……あ!毅さんの」
この前、毅の近所で触ってしまった漆のせいかも──そう言いかけて、口をつぐんだ。
最後まで漆にかぶれたどうしようもなく不出来な弟子として、壮介の記憶に残りたくは無い。
「……毅?」
「違いますっ!」
壮介の呟きを、千都香は慌てて遮った。
「何でもっ!何でも無いです、別に全然痒くもないし……っ?!」
こうなったらさっさと帰ってしまおうと、千都香は壮介の前を横切りかけた。
「お邪魔しました、さような」
「待て」
すると突然後ろから止められ、全く予想していなかった感触が、千都香の項に触れた。
「えっ?!え、なにっ……ひゃ……」
最初は微かに触れた何かは、次第に大胆になって行った。
千都香は振り向くことも出来ず、声も出せなかった。
これは、自分の隠れた願望が見せている幻だ。振り向いたら、何事も無かった様に消えてしまうだろう。
「……っ……」
「……奴が付けたのか?」
「え?あ……」
耳元で囁かれた言葉の意味が分からない。
回らない頭で考えていたら、体に腕が回された。
「…………悪かった。」
「え」
しばらくの後、千都香は抱き締められていた腕から、急に解放された。
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