168人が本棚に入れています
本棚に追加
「最後にセクハラだか弟子ハラだかして、悪かった。二度としねぇから、忘れてくれ」
「……いやっ……」
「え」
潔く謝られたというのに、千都香は壮介の謝罪を拒否した。
「……やだっ、やですっ……」
「おい」
「私、先生に、触って欲しいっ……」
「千都香っ?!」
とんでもない事を口にした千都香に、壮介は驚いた目を向けた。
「だって、ずっと触ってほしかったっ」
「お前、何言ってんだ」
「どうなっても良いから、ずっと触って欲しかったっ!!だって、先生、私に、なにか越しにしか、触らなくって……まるで」
「おい、待て」
「まるで、私が、毛虫みたいに、」
「……バカかお前は!?」
千都香の戯言への壮介の驚きは、限界を越えて怒りに変わった様だった。
「んな事したら、かぶれんだろうが!!」
「かぶれるほうがいいっ……」
「はぁ?!」
千都香は、壮介を見上げた。溜まり始めた涙のせいで、どんな顔をしているのかよく見えない。あんな声を出すくらいなのだから、きっと呆れているのだろう。
それならもう、いくら呆れられても、構わない。
「触ってくれなくなるくらいなら、かぶれる方が、全然いいですっ!」
「お前、そんな訳、」
「……なのに、なんでっ……」
千都香の目に、涙が急に盛り上がり、しゃくりあげそうになって言葉が出せなくなった。
「おい、泣くな。触れる訳ねぇだろ。かぶれたら、お前が辛いんだぞ」
「つらくなんか、ありませんっ……」
「この前の夏、辛かっただろうが。……お前が苦しむ事なんか、誰がしたいと思うかよ」
壮介は千都香を緩く抱き寄せて、背中をとんとんあやす様に叩いた。
「毛虫つったな。俺は漆が生業だ。手で触ってもなんともねぇから、知らねぇ間にどっかにつけても分からねえ。そんな手でお前に触れると思うのか?お前が毛虫なんじゃねえ、俺がお前にとっての毛虫だ」
「違いますっ……先生は」
「とにかく、帰れ。頭冷やせ」
「やだ、ここに居る」
「千都香、」
「……ごめんなさいっ……迷惑掛けて、ごめんなさい……もう、わがまま言わないから、」
「お前」
「……だから、今日だけ……一回だけっ……だめ?」
千都香に見上げられ、壮介は呻いた。
「……俺に、お前を、痛めつけろってか……」
「私、痛めつけられたりしませんよ?……だって……っ」
壮介に引き剥がされた千都香の目から、涙が落ちた。
「……ここは、駄目だ。納戸で待ってろ」
諦めた様に、壮介が言った。
最初のコメントを投稿しよう!