帰結

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「最後にセクハラだか弟子ハラだかして、悪かった。二度としねぇから、忘れてくれ」 「……いやっ……」 「え」  潔く謝られたというのに、千都香は壮介の謝罪を拒否した。 「……やだっ、やですっ……」 「おい」 「私、先生に、触って欲しいっ……」 「千都香っ?!」  とんでもない事を口にした千都香に、壮介は驚いた目を向けた。 「だって、ずっと触ってほしかったっ」 「お前、何言ってんだ」 「どうなっても良いから、ずっと触って欲しかったっ!!だって、先生、私に、なにか越しにしか、触らなくって……まるで」 「おい、待て」 「まるで、私が、毛虫みたいに、」 「……バカかお前は!?」  千都香の戯言(たわごと)への壮介の驚きは、限界を越えて怒りに変わった様だった。 「んな事したら、かぶれんだろうが!!」 「かぶれるほうがいいっ……」 「はぁ?!」  千都香は、壮介を見上げた。溜まり始めた涙のせいで、どんな顔をしているのかよく見えない。あんな声を出すくらいなのだから、きっと呆れているのだろう。  それならもう、いくら呆れられても、構わない。 「触ってくれなくなるくらいなら、かぶれる方が、全然いいですっ!」 「お前、そんな訳、」 「……なのに、なんでっ……」  千都香の目に、涙が急に盛り上がり、しゃくりあげそうになって言葉が出せなくなった。 「おい、泣くな。触れる訳ねぇだろ。かぶれたら、お前が辛いんだぞ」 「つらくなんか、ありませんっ……」 「この前の夏、辛かっただろうが。……お前が苦しむ事なんか、誰がしたいと思うかよ」  壮介は千都香を緩く抱き寄せて、背中をとんとんあやす様に叩いた。 「毛虫つったな。俺は漆が生業だ。手で触ってもなんともねぇから、知らねぇ間にどっかにつけても分からねえ。そんな手でお前に触れると思うのか?お前が毛虫なんじゃねえ、俺がお前にとっての毛虫だ」 「違いますっ……先生は」 「とにかく、帰れ。頭冷やせ」 「やだ、ここに居る」 「千都香、」 「……ごめんなさいっ……迷惑掛けて、ごめんなさい……もう、わがまま言わないから、」 「お前」 「……だから、今日だけ……一回だけっ……だめ?」  千都香に見上げられ、壮介は(うめ)いた。 「……俺に、お前を、痛めつけろってか……」 「私、痛めつけられたりしませんよ?……だって……っ」  壮介に引き剥がされた千都香の目から、涙が落ちた。 「……ここは、駄目だ。納戸で待ってろ」  諦めた様に、壮介が言った。
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