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「どうぞ」
「……ありがとうございます」
とりあえず事情を聞かないと手助けする事も出来ないと居間に引きずり込んだ壮介に、コーヒーを出す。
今までも壮介がしゃきっとしていた事など無いが、今日はいかにもカフェインが必要そうな、覇気のない疲れた顔をしている。
「千都ちゃんが居なくなったって……先生の所は、辞めたんでしょう?」
「それからずっと居なくなってるんじゃ無いんですか?」
「……昨日、家に来たんです。」
清子と麻が口々に聞くと、壮介はまだコーヒーに手を付けて居ないのに、眉を寄せた苦い顔で答えた。
「俺に、仕事を頼みに……直したい器を持って」
「まあ」
「ああ……」
それは、千都香が壮介に会いたかったからだろう。器はおそらく口実だ。
二人には、それが手に取る様に分かった。それと同時に、目の前の唐変木がそれを露ほども分かってやれなかっただろう事も分かった。
「でも、それでどうして居なくなったことになるの?」
「お家に帰ったんじゃ無いんですか?」
壮介の家に来ただけならば、居なくなったもへったくれも無い。そこに住んでいる訳ではないので、用が済んだら帰るだろう。
「……いや……」
二人の当然かつ素直な疑問を聞いた壮介の目が、不自然に泳いだ。
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