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「……訳有って、昨日、千都香を泊めまして……」
「えっ」
「え。」
そう言った話に縁の無いお年頃になった二人は、内心色めき立った。幾つになっても、この手の話は女の大好物だ。出来れば情緒に欠ける壮介ではなく千都香から聞きたいが、現在行方知れずなのだから贅沢を言ってはいけない。
千都香には見つかってから改めて聞いたら良いのだ。ある意味二度美味しい。
「泊めたなら、朝まで居たんじゃないの?」
「夜中は帰れませんよねぇ、電車も無いし」
好奇心を抑え、平静を装って先を促す。あまりつついては口を閉じるかもしれない。今の壮介はアサリ並みだと思わねばならない。
「……今朝までは、居たんですが……よく寝てたので、起こせなくて……」
「よーく寝てたのねっ」
「それは起こせませんわよね」
二人は言葉の後に「!!!!」を付けるのを必死で堪えた。麻はともかく、清子にしてはかなり頑張ったと言えるだろう。
「朝は居たのに、いつ居なくなったの?」
「よく寝てたのに、どうして」
「……ちょっと出掛けて帰って来たら、消えてました」
壮介は陰鬱な顔で、頂きます、とコーヒーを飲んだ。何故か飲む時顔をしかめたが、二人はそれほど気にしなかった。
「そう……帰りたくなる様な事が、有ったのかしらねぇ……よく寝てたのに……」
「先生の居ない隙を見て、お帰りになられたんですものねぇ……」
「う゛っ」
二人にわざとらしくしみじみ不思議そうに呟かれ、壮介はコーヒーでむせた。
間髪入れずに清子から箱ティッシュ、麻からお絞りが差し出される。
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