不在

6/27

167人が本棚に入れています
本棚に追加
/313ページ
 わくわくするのも、止むを得ない。  二人はずっと千都香と壮介の事を、勝手に応援していたのだ。口にしている神妙な言葉とは裏腹に漂う、はしゃいだ空気が隠し切れないのも無理は無い。  だが、千都香にならともかく、壮介にはそんな経緯は分からない。  前のめり過ぎる自分達に壮介が若干引いているのを感じ取り、二人は一度咳払いした。 「何が有ったのかしらねえ……よっぽど痛かったのかしら……」 「奥様……下手くそだったという可能性も……」 「いい加減にして下さい!あいつはちゃんと何度もイ……」  本人たちはこそこそと交わしているつもりなのに丸聞こえという、年配者あるあるな二人のあけすけな疑惑に答えかけてしまった壮介は、暴露の寸前で思いとどまった。  危なかった。今度こそ、千都香に知れたらどうなるか分からないデリケート極まる内容だった。 「ごめんなさい。いい加減にします。」 「申し訳御座いません。心から反省しています。」  口にしなかった後半部分を察したものか無視する事にしたものか、二人はけろりと謝った。  詫びる言葉と棒読みの口調に脱力した壮介は、ソファにぐったり沈み込む。  おふざけが過ぎた。これ以上獲物を弱らせてはいけない。清子と麻は、頷き合った。 「一番最初に、ここに来て下すったの?」 「他の心当たりには、まだお聞きじゃあないんですか?」 「いや…………一カ所、聞いたと言うか、行きそうなのに絶対行ってなかった事が、分かってる場所は、有るんですが……」  久々の、まともな質問だ。壮介はぐったりしたまま腹をさすりながら、今朝からの事をぽつぽつと思い返した。
/313ページ

最初のコメントを投稿しよう!

167人が本棚に入れています
本棚に追加