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……温かい。
自分の前に、熱を発するふわふわとした物が有る。
それが何かに思い当たって、壮介はぱちりと目を開けた。
なだらかに柔らかい肩と小さな頭が、呼吸とともに微かに揺れている。
胸にかかる吐息が、くすぐったい。すうすうと、よく眠っている様だ。
起こすべきかどうか、少々考えた。
抱き合いたいだけ抱き合った末、何もせずに眠った翌朝だ。あちこち清めたいだろうが、疲れても居るだろう。
ここまで来たらもう、入浴が少しくらい早かろうが遅かろうが、大した違いは無いのではないか。
起こさない程度に軽く額に口づけると、壮介は出来るだけ静かに布団から出た。
シャワーを浴び、交わりの残滓を洗い流しながら、考える。
昨夜の一件を、このままにしておく訳にはいかない。
千都香にも色々と考えは有るだろう。だが壮介には、千都香がまだ気が付いていない、すぐにでも解決しなくてはならない問題が有った。
着替え終わって納戸を覗くと、千都香は無防備な表情で、まだぐっすりと眠っている。
ひたひたと溢れて来る感情が満ち切らない内に、壮介はメモを残して、家を出た。
*
「朝早くに、済まない」
門前払いされるかと思って訪ねた訪問先の戸は、呆気なく開いた。
……但し、無言で。
「どの面下げて来やがったのかと思ってるだろうが、」
玄関に入って扉を閉め、框には上がらずに、自分に向けられている背中に頭を下げる。
「まず……昨日の事を、謝りに来た。」
壮介は、立岩毅にそう告げた。
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