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「返せ?…………千都香さんは、物じゃないだろう?」
毅は、大きな溜め息を吐いた。
「分かってる……それでも、」
分かっていても、今更でも、壮介は千都香が欲しかった。
もし千都香が壮介と居ることを拒否しても、頷いてくれるまで、どんな事でもする──今朝千都香の寝顔を見詰めながら、自然にそう決めていたのだ。
「勝手だな」
毅の当然の一言が、鋭く刺さる。
「追い払ったり、返せと言ったり……最低だぞ、お前」
何も、言い返せない。
全て、毅の言う通りだからだ。
「千都香さんが決める事に、俺は従う。俺は、彼女を、縛り付けたりはしない」
毅が言っている事は、どれも誠実で、誰もが納得する様な正論だ。壮介の勝手な言い草とは、比べ物にならない。
人間としての出来の違いにうんざりしそうになりかけたが、それでも壮介は、千都香を諦められなかった。
「……しかし、昨日の事は、それとは別だ。」
黙り込んでいる壮介に、毅は固い声で告げた。
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