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「千都香さんには、俺の事は何も言うな。昨日の事も、今日の事もだ。いつか話せる時が来たら、直接自分で話したい」
そこでやっと呼吸を取り戻した壮介は、咳き込んだ。それを見た毅は、いっそ面白そうな声で言った。
「そうそう。打ち身はともかく、骨が折れていたら医者に行けよ。但し折れてるのが肋骨なら、固定は出来ない。治るまで、そのままだ」
毅は、さっさと踵を返した。
あとは勝手に消えろと言う事らしい。
「じゃあな。もしどこも折れてなかったら、僥倖だと思え」
*
「行ってなかった事が分かってる、って?」
「お友達の所か何かですか」
毅との一件を思い出していたら、清子と麻に尋ねられた。
「最近千都香が世話になっていた、俺の友人の所です」
「えっ!」
「まっ」
二人はどちらも一音だけ発した。
「もしかして……陶芸の」
「千都香さんがお手伝いに行った」
「ご存知でしたか」
「着物を貸したもの」
「ああ……」
「そこには、居なかったんですよね?」
清子の答えに頷きながら腹を擦っている壮介に、麻はせっかちに聞いた。
この男は、何を悠長に構えているのだ。千都香があんなに恋い焦がれていると言うのに、恋敵の元にあっさり渡したりしたら、許さない。
「居ませんでした。少なくとも、今朝俺が行った時には。……すれ違いで奴んとこに行ってたら、分かりませんが」
「行かないわよ!」
「行く訳無いじゃないですか!」
「……はあ、」
自嘲気味に告げられて、二人は逆上した。
千都香がそんな事をする訳が無いではないか。
好いた男に距離を置かれて泣く泣く諦めかけたところで別の男に求められたものの、最後の最後に思いが叶って、一夜を過ごしたばかりなのだ。
壮介以外の男を頼る訳が無い。
「どこ行っちゃったのかしらね……」
「実家とかですかね……」
二人は壮介に「連絡が来たらすぐに知らせる」と固く約束をして、壮介は清子の家を後にした。
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