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「……それで、なんで俺んとこ来るの?」
「……いや……」
「仕方ないか。お前、友達少ないもんなー」
そうではない。
向かいのソファに座る和史に可哀想な目で見られて、壮介はムッとした。
清子と麻の元を辞した壮介は、寄り道したのち、友人の長内和史の元に来ていた。千都香の行方を知らないかどうか、聞くためである。
壮介は昨日訪ねて来た千都香を家に泊めた事、今朝毅に謝りに行った事、帰ったら千都香が居なかった事を、最初にさらっと説明した。
麻と清子に聞かれた様に、どうせ和史にも吐かせられるのだ。突っ込まれて狼狽えるより、言って差し支え無いところだけ、先に告げておく方が良い。
「俺のとこよりもっと先に、聞きに行くとこあるだろうに」
追い討ちを掛ける様に、そう言われる。
壮介の友達は確かに少ないが、それはこの際関係ない。壮介の友達と千都香の友達は、ほぼ重なって居ないのだから。
千都香とそれほど親しくは無い和史の所に来たのは、壮介なりに理由が有るのだ。
「ビヤホールに行くには、まだ早いだろ。スタッフが少ない時間に行っても、千都香の友達が居るか分かんねぇし」
千都香のバイト先のビヤホールには、親しい同僚が少なくとも二人居る。一人は木村、もう一人は田中だか田畑だか言っただろうか。
ビヤホールに客が多いのは夜、スタッフが増えるのも夜だ。今行くよりも夜になってからの方が確実だろうというのが、壮介の考えだった。
「……教室の人間には、わざわざ今日聞かなくても、明日教室が有るから会うし」
千都香が親しくしている佐倉みずほに個人的に連絡するのは、躊躇われた。佐倉は、壮介の元妻の華也子と繋がっている。余計な事を突っ込まれる火種をわざわざ作りたくない。
教室の後で聞けば、短時間で話を切り上げられると思ったのだ……というか、思いたい。
「ふうん。……あとは……千都ちゃん、東京に親戚が居たよね?」
……そう。最大の問題は、壮介に「千都香にもう関わるな」と言いに来た、あの従姉妹だった。
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