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「ああ。従姉妹な。だが、どこに住んでるのかも、連絡先も知らん」
千都香は、母方の従姉妹達とは姉妹の様に仲が良いのだと言っていた。最初に直したいと持って来た常滑焼きの甕の蓋も、従姉妹の持ち物だった筈だ。
家に帰らずに従姉妹のところに泣きついて転がり込む、という可能性は高そうだった。
だが、従姉妹の住所や最寄り駅などについては、全く知らない。分かっているのはシロヤマリカという名前だけだ。それ以外は、都区内に住んでいるという事位しか分からない。
「そっか……って言うか、」
和史はちらりと壁の時計を見た。
「そんなに聞き回らなくっても、今頃お家に帰ってるんじゃないの?」
「……さっきはまだ帰ってなかった」
「電話したの?」
「電話なんかしたって出る訳ねぇだろ」
メモを見た時から、履歴が千都香の番号で埋まる位電話している。そして、その度に電子音声が出て、今は留守だとか電話に出られませんとか掛け直せとか言われ続けている。
「だよなあ。行ってみたら?千都ちゃんち。」
「もう行った」
「え?ここに来る途中……って言うか、ここに来る前?」
和史が律儀に言い直したのが癇にさわる。確かに、千都香の家は途中ではない。壮介宅からここまでに通る路線を大きく外れている。しかし、別に言い直さなくとも良いではないか。
「……ここに来る前と、書き置き見た後だ」
「えっ?」
ブスッとしつつも答えると、和史は目を見開いて壮介の方に乗り出した。
「二回も?!わざわざ!?」
「悪いか?」
「いや、悪くは無いけど……」
けど。
けど、何だ。
悪くはないけど面倒だよねとか、良くやるなとか、お疲れ様とか、とにかく呆れた雰囲気の言葉が続くのは間違いないだろう。
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