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「……もしかして……ここの帰りに、また行くの?」
「悪いか」
「悪くはないけど……」
先程聞いた様な会話だ。しかし、今度の和史の言葉には続きが有った。
「通報されない様に気をつけてね。友達が警察のお世話になるとか嫌だから」
「何も悪事は働いてねぇよ!!」
「最近は見慣れない男がうろついてるだけで、立派な通報案件だよ?」
突然の理不尽な犯罪者扱いに壮介は憤慨したが、和史は依然として哀れむ様な目を向けたままだった。
「それにお前、目立つだろ?その格好。端から見たら、立派に不審なおっさんだから」
「ぐ」
格好だけならお前もな、と言いたい所だが、格好以外の見た目や気配りが壮介とは違う。要領の良い和史は、通報される様な羽目に陥る事など無いだろう。
格好云々以外にも、和史の言う事には一理有る。千都香の住まいは閑静な住宅街にある、セキュリティのきちんとしたマンションだ。今日二回行った時には、管理人室の小窓はカーテンが閉められていて、不在の様だった。だが、訪ねては空振りという事が何度も続いて管理人や住人に見られると、不審には思われるかもしれない。
「……あとさ。これは可能性として聞いて欲しいんだけど」
「何だ」
何の可能性の件なのか、和史にしては珍しく言いにくそうだ。
「……千都ちゃん、行方不明じゃなくて、もしかして居留守って可能性も無くはないよね?」
「……かもな。」
何度も居留守を使われている可能性を指摘されたら、ショックだろうと考えたのだろうか。
恐る恐る口に出された和史の言葉を、壮介は淡々と肯定した。
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