不在

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 店に入って声を掛けてきたのは、黒地に大きめの赤の梅鉢模様の小紋に年代物の紅の鹿の子絞りの羽織を合わせた、女の子、と言って良い位の年格好の女性だった。   「ああ、(みゆき)。もうそんな時間?」 「はい、そろそろ」  幸と呼ばれた女性は和史に頷くと、壮介にぺこっと頭を下げた。 「ご無沙汰してます、壮介先生」 「いや、こちらこそお邪魔してます。すっかりお」  壮介は一旦言葉に詰まった。 「……お綺麗になられて」 「大きくなって、で構いませんよ」  くすくすと笑われて、壮介は苦笑した。この和史の許嫁に前に会った時、彼女の姉達と一緒に居た彼女は、まだセーラー服を着ていた。親戚のおじさんの様な感想になるのは、止むを得ない。 「ちょうど良いや。幸、俺にスタンプ送ってくれる?こいつガラケーしか持ってないから、見せてやろっと」 「スタンプ?……良いですよ?」  幸はくすくす笑いながら小首を傾げ手提げからスマホを取り出して、すっすっと操作した。 「見ろ、壮介。」 「んだよ」  和史が見せた画面には、うっすらと見覚えの有る謎のクマのキャラクターと吹き出しが、所狭しと踊っていた。 「既読、って付いてるよね、既読。これ、基本的に、読まれたか読まれてないか分かる様になってる訳。ガラケーだとそういうの無理だろ」  言われても何がなんだかさっぱりだったが、キャラクターをどこで見たかは、思い出した。  千都香のカードケースと、カレンダーだ。 「分かった?千都ちゃんとスマホで連絡取ってたら、もう少し手掛かりが有ったかもなのになあ」 「……そうか……」  壮介は、和史の言葉で考え込んだ。 「和史。」 「何?機種変のやり方?」 「いや……電車に乗るカードってのは、どうやって買うんだ?」  壮介が放ったスマホと無関係な一言は、和史に爆笑と新たなからかいの種を与えた。
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