不在

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 一週間前に休むと言ったのならば、昨日の事とは関係ない。毅に関わる何かなのかとも思っ 「ご注文はお決まりですか?」  タイミングを全く読まずに、木村が注文を聞いて来た。 「……芋。と、茶。」 「……へ?何と何ですか?」  壮介の注文は、通じなかったらしい。  木村は、千都香では無いのだ。メニュー通りの言い方をしないと、通じないのだろう。壮介は言い直すことにした。 「揚げ芋に唐揚げが付いて来る奴と、ウーロン茶。」 「え……」  「え」以下の返事が遅い。変な顔をしているのを見ると、通じなかったのだろうか。  これでも努力はしたのだがと思いつつ、壮介は木村に正式名称を告げる為に、もう一度メニューを手に取って開いた。 「……『先生』……飲まないんですか……?」 「頼んだろ、『ウーロン茶』。あと芋と唐揚げな」  通じては居たらしい。壮介はメニューを開いたと同時に閉じてスタンドに戻し、念の為に注文を復唱した。 「かしこまりましたけど少々お待ち下さい!?」  木村はビヤホールで可能な程度に脱兎の如く、壮介の元を去った。厨房に入るかと思って眺めていたら、ビヤサーバーの所で白シャツと黒蝶ネクタイに黒ベストの女性と話している……  ……と思ったら、二人揃ってこちらを見た。  目が、物凄く見開かれている。何なのだろう。  あまりにもまじまじと見られ続けたので居心地が悪くなり、壮介は二人からやんわり目を逸らした。  このビヤホールの従業員教育は、大丈夫なのか。木村だけでなくもう一人の千都香の友人も、行動が怪しい。これでは千都香が休んだら、このビヤホールは困るのでは……  そうだ、千都香だ。  千都香は何故休むと言ったのかという、先程の疑問に思考が戻った。  毅絡みでの休みだとしたら、毅に聞くしか知る術は無い。千都香の休みの理由を聞くとか行方を聞くなど、謝りに行った時の比では無い図々しさだ。  今度こそ、どの面下げて聞くというの 「お待たせ致しました。チキンバスケットと、ウーロン茶です」  またもや木村は壮介の思考を、見事な迄に遮った。
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