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「……だよな……」
壮介は、ウーロン茶を一口飲んだ。ビールと違って、妙に腹にたまる。
「無理言って悪かった。休みだと分かっただけでも助かる」
「助かる?」
木村に聞き返され、何と答えるか迷う。
千都香に逃げられたというのが正しいのだが、清子の所の様に、何故千都香が逃げるのかという話になっては困る。かといって和史にした様に概略を話す訳にもいかない。和史は壮介の友人だが、木村は千都香の友人だ。本人不在で勝手に経緯を知られたくは無いだろう。
「千都香に、会いたいんだ」
壮介は、自分の事情だけを話すことにした。
「なるほど……千都香に。」
「ああ。だが、家に行っても居なくてな」
「……あー……」
木村は何故か可哀想な物を見る目で壮介を見た。
千都香からガラケーだから連絡が取りにくいとか、一人で出掛けて乗り間違えて信玄餅を買って来たとか葱味噌煎餅を買って来たとか、日頃愚痴られているせいなのだろうか。
壮介が我が身の悪行を振り返りつつ芋をつついて反省していると、木村がぼそっと言った。
「平取ちゃん、お家に帰らないかもしれませんよ」
「え?!っぐほっ」
壮介は、飲みかけていたウーロン茶でむせた。すかさず木村が新たなお絞りを差し出す。こういう社員教育は万全なのか。
家に帰らないかもしれないとは、壮介も思っていた。しかし、それは昨日の事を踏まえた上でだ。
昨日何が有ったかを知らない、あらかじめ休むことを知らされていただけの木村が、何故千都香は帰らないかもしれないなどと言うのだろう。
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