一途さの功罪

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「平取ちゃん。来てるよー、例のお客様ー」  空きジョッキを下げて来た木村に、そう声を掛けられた。ちょうど上がってきた注文の料理を、トレイに乗せた所だ。 「あ、ほんとですか?……これ出して、注文伺いに行って来ますね」  行っといでー、と言われ、水もトレイに乗せて、ホールに出る。  普通の客には、水は出さない。ここは、ビアホールだ。居酒屋も同様だろうが、酒やビールを飲みに来る店だ。一杯目から水など、飲まないだろう──但し、どんな事にも、例外は有る。 「いらっしゃいませ、立岩さん」  先客に料理を出し終えた千都香は、にこっと笑い掛けながら、テーブルに水を置いた。 「……あ。ありがとう、千都香さん」  喉が乾いていたのか、毅はそれを一気に飲み干した。  ビヤホールで一杯目から水をのむ客は、飲めない下戸(げこ)の客だけだ。  
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