167人が本棚に入れています
本棚に追加
/313ページ
「何だ、それ!?引っ越すのか、あいつ?!」
「……お飲み物のお代わりは、いかがですかー?」
壮介の疑問に、木村はわざとらしくにこやかに全く答えになっていない答えを返した。
「は?なんで今お代わりだよ?!」
ウーロン茶は、まだグラスに一センチほど残っている。アルコールなら何杯でも行けるが、水物を二杯も飲む気にはならない。
「……お客様とテーブルでお喋りするのは、厳密に言うと仕事じゃないから?」
答えが何故か疑問系だが、言ってる事は筋は通って居なくもない。答えが知りたければ注文しろと言うことか、または本当に特定の客の席で長々と話していてはまずいのかもしれない。
「……じゃあ、普通のビール。」
「……ウーロン茶からのビール、ですね……」
壮介の注文を聞いた木村は、解せない顔をした。
「悪いか。食ってんだから、飲んでも良いだろ」
「かしこまりました。少々お待下さい」
解せない顔をしたまま、木村は去って行った。
……当然だ。木村は千都香では無いのだから、「飲むなら食べて!」という理屈は関係ないし、普通ソフトドリンクの後にアルコールは……特に、ビールは飲まないだろう。
通じない理屈で誤魔化そうとして誤魔化し切れなかったが、壮介が飲みたくなった理由は、実のところは「引っ越し」だった。
千都香が引っ越す理由など、毅の家に住む為位しか考えられない。今朝の毅は千都香の事を諦めた風な事を言っていたが、千都香が既に引っ越す予定になっていて、実際に越して来たなら、どうするだろう。
壮介は勝手に都合良く解釈をしていたが、千都香の口から毅ではなく壮介を選ぶと聞いた訳でも、壮介が好きだと聞いた訳でも無い。単に、今の所毅とは何でもなくて、壮介に沢山触って欲しくて、双方の合意の上で一夜を共にしたと言うだけだ。
もしかすると千都香が消えたのは、毅との約束を実現する前に、壮介との間に思い出を作る為かも
「お待たせしましたー、黒ラベル中ジョッキでーす」
壮介の物思いは、三度木村にぶった切られた。
最初のコメントを投稿しよう!