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「……どうも。」
礼を言って、ジョッキに手を掛ける。
「……お家の更新なんですって。」
まだ持ち上げないうちに、木村がこちらを見ないで言った。
「え」
「大サービスです、田仲から。と、私から」
そう言って木村は、先程話していたビール担当の白シャツの女性をちらりと見た。
「住んでるとこの更新時期だそうですよ。住み続けるか悩んだみたいだけど、別の物件探すって言ってました」
「……更新……」
更新、という音だけが頭の中でぐるぐる回る。意味がよく掴めない。
「前の仕事、辞めたし?今の仕事にもう少し近いとこが良いなあって」
「ああ……ここの近くか」
「ここ『も』、ですけどっ」
木村は壮介をじろっと睨んだ。
「『先生の家から歩いて帰れるとこが良いんです』って」
「え」
「二人分のありったけのサービスは終わりです。私達は平取ちゃんの幸せを祈っているので、『先生』の応援は致しません」
壮介が呆気に取られている間に、木村はまくし立てて頭を下げた。
「ご注文はお揃いですね?サービス無しでの追加注文が有ったら、お呼び下さい」
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