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「ただいまなちーん!」
城山雪彦は、テンション高く自宅の玄関のドアを開けた。
手には、箱入りの丸ごとシフォンケーキ。クリームを別に持ち帰れるそれは、ふわんふわんの甘いものが大好きなお姫様へのラッシュ時間帯のお土産ケーキにはぴったりだ。
「おかえり、ゆきにい!」
親戚一同のお姫様こと従姉の娘の北浦愛香が、奥からぱたぱたと走って来る。星とハートが飛んでる部屋着に、もこもこのウサギの室内履き……は良いとして、頭にふわふわのタオルを巻いている。本当に、とても、心底、可愛い。しかし、ふわふわの意味する所が少々気になる。
「もう入ったの?……お風呂。」
「うん!もう入った!」
「うぇー!?」
雪彦の予感が的中した。頭のタオルは、髪を洗って乾かすまでに巻かれる物だ。
「ずるーい!!」
全く理不尽なことに、雪彦は年端も行かぬ愛香に向かって、子どもの様にぶうたれた。
「俺も、まなちんとお風呂したかった!!」
「ごめんね?今度はゆきにいと入るからね?」
がっくり床に崩おれた雪彦の頭を、よしよし、と愛香が撫でる。どっちが子どもか、と誰もが思いそうだ。
「……ゆき。まなとお風呂に入るのは、そろそろ卒業しよう?」
その「誰もが」のうちの一人が、髪を拭きながら奥から出て来て、二人のやり取りを見て苦笑した。
「それ、もしかして、誤解してるし!しばらく前から、一緒になんて入ってねーし!髪の毛洗ってあげてるだけだし!」
「同じだよ」
湯船に一緒に入ったりはしていない。その位の節度は有る、と言いたかったのだが、あっさり却下された。
「同じでしょ、同じ。雪彦は男で、愛香は小さくても女の子でしょ。男女七歳にしてお風呂に一緒に入ったりしちゃいけません」
……そういう事を言うのか。
それなら、その、風呂上がりに脚丸出しの部屋着でうろつくのもやめて欲しい。……と雪彦は言い掛けて、止めた。
口にしなかったのは、それを本気に取られて止められたら少々困ると思ったからだ。
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