ちぃちゃんはどこ?

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   *  城山邸のテーブルに据えられた卓上こんろに、重い鉄鍋が乗っている。二人じゃ使わないからと、(ひさし)から城山姉弟へと形見分けされたその鍋の中からは、砂糖と醤油がぐつぐつ煮える、美味しそうな音と匂いが湯気と一緒に立ち上って来る。 「いい?もういい?」  一番そわそわしているのが愛香(まなか)ではなく雪彦なのは、お子様だからではなく、育ち盛りの男子だからだ。少なくとも食卓を囲んでいる女性陣は、そういう事だと解釈してやることにした。 「いいよ。では、いただきます!」 「いただきます!」  四人は挨拶を終えて、思い思いに箸を伸ばす。 「まな、取れる?」 「うん!遠くのは、ゆきにいにお願いする!」  千都香が尋ねると、愛香は肉に手を伸ばしながら答えた。自分でやりたい年頃だし、性格だし、環境だ。無闇に手伝うことはしない。 「お父さんからお肉代預かったからねー。いっぱい食べな」 「うん!たべる!」  梨香の言葉に頷いて、愛香は肉を頬張った。 「ゆき。春菊食べな」 「……えー……苦い……」  まずは肉と肉と肉と肉を取っていた雪彦は、千都香の指摘に嫌な顔をした。 「いつまでもお子様味覚のままで居ないの!好き嫌い言うと、まなの教育にも悪いんだから!」  自分の事は棚上げか、と雪彦は思った。そう言う千都香が添え物のグリンピースが苦手なことを、城山姉弟は長年の付き合いで良く知っている。 「ゆきにい、大丈夫だよ?まながゆきにいの分も、シュンギク食べてあげる!」 「まなちん……」  膨れた雪彦の横で、愛香がにこにこしながら春菊を食べている。それを見た雪彦は、春菊を取って肉に巻いて食べた。 「わあ!ゆきにい、シュンギクたべて、えらーい!!」 「俺、えらーい…………まなちん、かいふくまほうして……」 「二人とも、お野菜食べてえらーい。……はい、肉。」  ペンギンのキャラクターの口調を真似する二人に苦笑しながら、千都香は鍋に新しい肉を追加した。
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