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城山邸のテーブルに据えられた卓上こんろに、重い鉄鍋が乗っている。二人じゃ使わないからと、尚から城山姉弟へと形見分けされたその鍋の中からは、砂糖と醤油がぐつぐつ煮える、美味しそうな音と匂いが湯気と一緒に立ち上って来る。
「いい?もういい?」
一番そわそわしているのが愛香ではなく雪彦なのは、お子様だからではなく、育ち盛りの男子だからだ。少なくとも食卓を囲んでいる女性陣は、そういう事だと解釈してやることにした。
「いいよ。では、いただきます!」
「いただきます!」
四人は挨拶を終えて、思い思いに箸を伸ばす。
「まな、取れる?」
「うん!遠くのは、ゆきにいにお願いする!」
千都香が尋ねると、愛香は肉に手を伸ばしながら答えた。自分でやりたい年頃だし、性格だし、環境だ。無闇に手伝うことはしない。
「お父さんからお肉代預かったからねー。いっぱい食べな」
「うん!たべる!」
梨香の言葉に頷いて、愛香は肉を頬張った。
「ゆき。春菊食べな」
「……えー……苦い……」
まずは肉と肉と肉と肉を取っていた雪彦は、千都香の指摘に嫌な顔をした。
「いつまでもお子様味覚のままで居ないの!好き嫌い言うと、まなの教育にも悪いんだから!」
自分の事は棚上げか、と雪彦は思った。そう言う千都香が添え物のグリンピースが苦手なことを、城山姉弟は長年の付き合いで良く知っている。
「ゆきにい、大丈夫だよ?まながゆきにいの分も、シュンギク食べてあげる!」
「まなちん……」
膨れた雪彦の横で、愛香がにこにこしながら春菊を食べている。それを見た雪彦は、春菊を取って肉に巻いて食べた。
「わあ!ゆきにい、シュンギクたべて、えらーい!!」
「俺、えらーい…………まなちん、かいふくまほうして……」
「二人とも、お野菜食べてえらーい。……はい、肉。」
ペンギンのキャラクターの口調を真似する二人に苦笑しながら、千都香は鍋に新しい肉を追加した。
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