ちぃちゃんはどこ?

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「……まな?……名人って、何?」  千都香が、困惑気味に尋ねた。  その横で、梨香は訝しそうな顔で雪彦の背中をさすり、雪彦は下を向いてげほげほしながらも頷いている。 「えー?だって蓋とか魔法みたいに直ってたから!そのコップとか」  愛香は、梨香の前にあるマグカップを指差した。千都香が繕った、北欧ブランドのマグだ。 「それで、ちぃちゃんすごい!って思ったの。ちぃちゃんの先生はもっとすごいから、名人だよね?そういうの名人って言うって、この前テレビでやってたよ」 「え。金継ぎ?お皿とか直してたの?」 「うーうん。やぶれたお洋服」 「あー……」  一同の頭に、現代の名工表彰のニュースが浮かんだ。対象となる物体は違うが、似ている事は似ている。  話している間に追加した鍋がぐつぐつ言い始めた。千都香は蓋を取って春菊を入れ、愛香が好きな絹ごし豆腐を大人用の焼き豆腐の隣にそうっと入れた。 「まな、名人に会って、ありがとうって言いたい。お母さんも、言いたいって」 「……そっか」  しらたきを取る愛香を見ているいとこ三人の目頭は、ほんのり潤む。  愛香は、我が儘を言わない。何かを口にしても、周りに迷惑そうだと見て取ると撤回する。
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