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本人が本人の意志でしていることなので、我慢に似ているその行動を、止めさせる事は難しい。だがそれだけに、愛香がしたいと言うことは叶えてやりたいと、周りの大人は思うのだ。
「ちぃちゃん、お仕事やめても、名人に会える?」
「……どうかなー……忙しいからね、名人は。」
淡々と言いながら、千都香は醤油色が付いた絹ごし豆腐を愛香の器に掬って入れた。
「……あ。お風呂そのままだ。追い焚きしてくるね。御馳走様でした」
千都香は、空になった野菜の皿と自分の取り鉢を台所に下げ、風呂に向かった。取り鉢には、使った形跡がほとんど無い。
「ゆきにい?」
「……なーに、まなちん?」
眉を気持ちへの字にして千都香を見送っていた雪彦が、愛香に呼ばれてにっこり笑う。
「おいだきスイッチ、キッチンにもあるよね?ちぃちゃん、知らないのかな?」
愛香が豆腐を食べながら、不思議そうに首をひねった。
愛香の家の給湯器の調節パネルは、風呂と台所の両方に有る。城山邸も同じだ。愛香は追い焚きのスイッチを押すお手伝いを家でもここでも何度もしたので、良く知っているのだ。
「……そうだね、知らないのかもなー。ちぃちゃんちは、うちとかまなちんちよりも、ちっちゃいからさ。台所の隣がお風呂だから、追い焚きスイッチはお風呂だけなのかもね」
「あ、そっか!」
雪彦の説明に、愛香は納得した様だった。
「これからは、ずっとここに居るんだよね?まな、あとでちぃちゃんに教えてあげる!」
「ありがとな、まなちん。」
雪彦にぐりぐり頭を撫でられて、愛香は嬉しそうに声を上げて笑った。
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