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「ええっ?!」
「仕事!?」
壮介の言葉に、二人は色をなした。それには構わず、淡々と言葉を重ねる。
「金曜日は、カルチャースクールの日です。午前中は、そっちに行かないと」
「先生っ!」
「何ですって?!」
清子も麻も、立ち上がらんばかりだ。こうなるなら喫茶店ではなくファミレスにでもしておけば良かったかとちらりと思ったが、この小さな駅前商店街には、ファミレスなど無い。
「ここに来ないとは、言ってません。スクールが終わったら、来ますんで……運が良ければ、会えるでしょう」
「運って、何寝ぼけたこと言ってんですかっ!?休講になさって下さい!」
「人生の一大事よ?サボっても誰も文句は言わないわ!」
人生の先輩とは思えない悪事へのそそのかしだが、酸いも甘いも噛み分けた結果の要領の良さだと言えなくも無い。
壮介は二人の言葉に、ふっと笑った。
「……言われますよ、文句」
「誰がですか?」
「そんなの無視して頂戴!」
「千都香です」
「え」
「あ」
「俺がサボって真っ先に文句を言う奴は、千都香ですよ」
壮介は固まっている二人に説明する前に、冷めかけたコーヒーを一口飲んだ。
「あそこは、あいつと一から作った教室です。自分の方が実力が有るからやらせて欲しいと言って来た奴を跳ね付けてまで、あいつが続けたかった仕事です。千都香に会う為にサボったなんて知れたら、会うどころか一生顔向け出来ません」
「……それは……」
「……そんなの……」
清子も麻も、それだけ言うとぴたりと黙った。
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