ちぃちゃんはどこ?

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 千都香の大事にしていたものを(ないがし)ろにして千都香に会いに行く事は、千都香の気持ちを踏みつけにする事だ。それでも行けとは、言えないのだろう。  二人に申し訳無い気持ちになった壮介は、頼み事を口にした。 「まあ、今回駄目でも、いつか清子さんには連絡が来るでしょうから……空振りだったら、それを待ちますんで。その時は、宜しくお願い致します」 「分かったわ。そうよね、これが今生(こんじょう)の別れって訳じゃあないものね」 「私は、引っ越しがなるべく遅い時間である事を祈ってますよ」  壮介は、有り難う御座います、と二人に深々と頭を下げると、コーヒーカップを手に取った。  曜日が被っているのは偶然かもしれないし、もしかしたらわざと金曜にしたのかもしれない。可能性は低いだろうが、万が一わざとそうしたのだとすると、千都香は壮介が探すことを予測して、来るか来ないか試しているのか──もしくは、絶対に会わない様に教室のある日にしたのかもしれない。  千都香の居場所のひとつであった壮介の助手という仕事を、壮介が奪った。そして毅の元での手伝いという居場所も、千都香と一夜を共にする事で壮介が潰した。  以前送って行った時に見た、部屋の様子が(よみがえ)る。あの部屋さえも壮介と関わった事がきっかけで、じきに千都香の居場所ではなくなってしまうのだ。  これから千都香はどこを自分の居場所と決めて、誰と居ることを選ぶのか。その選択の結果に、自分は関わることが出来るのか。 「……私も、運とご縁が有ります様にって、お祈りするわね」 「運と縁、ですか」  清子が口にした二つともは無理でも、どちらかだけでも、自分と千都香の間には、有るのだろうか。  そんな埒もないあれこれを思い浮かべながら、すっかり冷たくなった苦いコーヒーを、壮介は一息に飲み干した。      
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