ちぃちゃんはどこ?

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「はーい?今、引っ越し中なんですけ……ど」  雪彦はインターホンは使わずに、直接部屋のドアを開いた。宅配業者ではなく、見たことのない男が一人立っている。 「……なんもねぇのな……」  変わった形のコートを着た男は、玄関ドアを開けた途端、聞こえるか聞こえないか位の小さな声で呟いた。この寒いのに何故か素足で、草履の様な物を履いている。 「……何か、用ですか?」 「ああ、すみません。平取千都香さんは、ご在宅ですか?」  そう尋ねられて、雪彦の中のスイッチが切り替わった。  ……こいつとは、きちんと話をする必要が有る。 「そこで、待っててくれます?」  そう言って返事は待たずに、扉を乱暴に閉める。そのまま帰ってしまうかもしれないが、それならそれで構わない。面倒事が減るだけだ。  話が途中になっていた、引っ越し業者に頭を下げる。 「すみません。荷物じゃなくて、客が来たみたいで……応対しないといけないので、トラックに乗ってかなくても良いですか?あっち側には、受け取る人間はちゃんと居ますんで」 「ええ。あちらにどなたかいらっしゃるなら、構いませんよ。……ここに、確認のサインだけ頂ければ」  雪彦は差し出された確認書にサインして、業者と共に玄関に向かった。  「では、失礼致します。ありがとうございました」 「どうもありがとうございました。宜しくお願い致します」  業者にお辞儀をしてエレベーターの方に立ち去るのを見送る。先程まで廊下やエレベーターにしてあった養生は、短時間の間にすっかり取り去られて居た。雪彦と責任者が話している間に、もう一人のスタッフが片付けたのだろう。  業者が去ったのと逆の方を見ると、さっきの男はそこで大人しく待っていた。 「……お待たせしました。どうぞ」  雪彦は男を睨み付けながら、ドアの中へと(いざな)った。  
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